津田理子とピアノ音楽の集い2010 プログラム・ノート (2)
5月23日(日)の津田理子さんのコンサートのプログラム・ノート、その2です。

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ショパン作曲 ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 Op.35
 
 ショパンは今年生誕二百年を迎えます。そのショパンの作品から本日は葬送行進曲付きのピアノ・ソナタ第2番をお聴き頂きます。
 この作品は、1839年の夏、ジョルジュ・サンドと共に滞在していたノアン(パリから列車で乗り換えをいれて三時間ほど南に下った村)で書かれました。ソナタとは言え、古典的なソナタの形からは完全に外れた破天荒な作品で、ソナタとしては極めて独創的な作品です。
 十九世紀ロシアの大ピアニストのアントン・ルービンシュタインはこのソナタを「死の詩」と評しています。
 4つの楽章から出来ており、第1楽章は暗い序奏の後、焦燥感にとらわれたかのような第1主題とコラール風の第2主題による極めて自由なソナタ形式で出来ています。2つの主題の性格の大きな対比の上に絶望感と祈りが歌い込まれています。
 第2楽章はスケルツォ。破壊的なテーマと穏やかなトリオという極端な対比に彩られた楽章で、半音階的な進行が調性感を破壊する寸前まで追い込んでおり、1839年に書かれたとは信じられないほど独創的な楽章です。
 第3楽章はここだけ取り出して演奏されることもあるほど有名な「葬送行進曲」。
 この楽章だけ1837年に書かれています。以前の婚約者のマリアと別れた前後にあたり、この作品の中でこの曲だけ少し違う感じがするのはそのせいなのかも知れません。
 葬送の鐘の鳴る中、静かに葬列が進み、中間部で少し明るくなり、亡き人の追憶が浮かびあがりますが、また葬列の鐘とともに極めて緩やかな行進がはじまるのです。
 終楽章はたった1分ちょっとで終わる短い楽章で、そのあまりにユニークな発想は驚異としか言いようがありません。右手と左手は最初から最後までユニゾンで進み、急速な無窮動な音楽です。
 同じ頃フランスで活躍したアルカンという作曲家がよく似た技法の練習曲を書いていますが、ショパンのこの音楽からは、調性感をほとんど感じることはできず、突風が吹き過ぎて行くがごときそれは「葬送行進曲の後を受け、墓場に風が吹く」と言われることもありほどです。
 ショパン自身は「行進曲の後で両手が無駄口を叩く」と言っていますが、いずれにせよ、当時の聴衆はさぞ驚いたことでしょう。

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この異色作は、ショパンの前衛性を実感させる傑作中の傑作。当時の聴衆がどれだけこの音楽を理解し楽しんだことか…ちょっと心配になるほど実験的ですらある。
だからこそ、フランツ・リストやシューマンたちがショパンを高く評価したのではないだろうか?

写真はヌーシャテル湖とヌーシャテルの町。
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by Schweizer_Musik | 2010-03-25 11:15
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