作曲者 : SCHUMANN, Robert Alexander 1810-1856 独
曲名 : ピアノ三重奏曲 第1番 ニ短調 Op.63 (1847) 演奏者 : カザルス・トリオ【ジャック・ティボー(vn), パブロ・パウ・カザルス(vc), アルフレッド・コルトー(pf)】 CD番号 : EMI/2173042 何を今更という演奏だが、エミール・ギレリス、レオニード・コーガン、ムスティスラフ・ロストロポーヴィッチの3人の精力の有り余っている力強いシューマンを聞いて、悪くはないまでもちと違和感を憶え、古い往年の名盤はどんなだったかと思って聞き始めたら、違和感なんて全く感じさせず、私の心にピタピタッとはまっていくのに感動!!恥ずかしながら、やはり世紀の名盤だなぁとつくづく思い知った次第である。 冒頭のこれ以上ないというほど暗く陰鬱な出だしを、余裕綽々に歌い上げている。途中の珍しくsul ponticelloのところの不思議な味わいも格別で、はじめて聞いた時は何事かとずいぶん驚いたものである(ちなみにはじめてそうした奏法があると知ったのはこの曲、この演奏であった…)。コルトーのピアニシモの美しいこと!!雑音だらけの録音の彼方から青白いロマンの光がフワリと射し、幽界に彷徨うが如き味わいを楽しむことができる。 第2楽章のスケルツォは、シューマンの書いた最も優れたスケルツォだと私は考えているが、青白い光はこの音楽からも放たれ、幻想は一層多様に深まっていくのである。 そして第3楽章で深き淵より流離う魂が悲しみの歌を歌うのだ。この楽章の孤独感はシューベルトに繋がり、そしてマーラーへと繋がっていくものと私は思う。 まだ多分若かったはずの3人の巨匠たちは、これを絶妙な余裕で歌い上げる。切羽詰まったところではなく、大人の音楽へと止揚されたそれは、どこまでも深く悲しく、そして味わい深い。再現での三者の絡み方は、シューマンの表現に対する志の高さと作曲技術の高さを示す、最も良い実例であろう。 終楽章で私たちは幽界から現世へと引き戻される。とは言え、どこかに幻想の残存物を抱えながら、現実の風景、見慣れた風景がどこか現実のものでないような気がする、そうした夢と現実の狭間のような音楽なのである。Cpn fuocoと指示されたこの楽章を表面的にあっけらかんと演奏すると、その前の楽章が楽章なので違和感を感じてしまう。シューマンの難しいところだ。この名演ではそうしたことを感じさせるようなことは全くない。まことに見事というしかないのである。 写真はソーリオの村はずれの風景。険しい山容の素晴らしさもであるが、こうした何気ない牧歌的風景にセガンティーニは彼岸の風景を見ていたのではないだろうか?
by Schweizer_Musik
| 2010-10-11 21:41
| 秋の夜長に音楽を聞く
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