作曲者 : BEETHOVEN, Ludwig van 1770-1827 独
曲名 : ピアノ・ソナタ 第7番 ニ長調 Op.10-3 (1796-98) 演奏者 : ブルーノ・レオナルド・ゲルバー(pf) CD番号 : DENON/COCQ-84055 昨日、偶然ゲルバーのベートーヴェンを聞き始めて、ちょっとはまってしまったようで、今朝もこれを聞きながら仕事にはいる。 昔、ヤマハにいた頃、講師の資格試験で散々下手くそなこの曲の演奏を聞かされたおかげで、こんなもの二度と聞きたくないと思ってしまい、ついついベートーヴェンのこの曲は敬遠するようになっていたところがあるのだが、ゲルバーのような演奏で聞くとさすがに良いものだ。 これなんてオーケストレーションしたらホントかっこいい交響曲になりそうなところがある。第1楽章冒頭のユニゾンの主題が提示された後、推移主題がロ短調で出てくるあたりドキッとするような効果があり(多くの人がこれを第2主題と誤解しているのも無理はない。良いタイミングで提示されるので…)、続く属調での第2主題を食ってしまうほど優美で第1主題と際だった対比が描かれていたり、その後の第2主題が第1主題と大きく性格を異にするハーモナイズされた可愛いものだから、この三者の対比は実に見事だと思う次第なのである。 推移主題が拡大し、それぞれの性格の対比をゆるめるとブルックナーになる。無論サイズが全く違うけれど、この曲はそうした可能性を示している名作なのである。 第2楽章の深みのある表現もこの頃のベートーヴェンとしても、またこの曲の中でも特筆してスケールが大きい。ゲルバーはこんなに精緻で多彩な音色を使い分けて、立体感のある表現でこの楽章を見事に演奏している。低音でのハーモニーはベートーヴェンの特長だが「心の憂鬱を表し、そのあらゆる陰影や相を描く」とベートーヴェンが語るとおり、この楽章は初期のベートーヴェンの書いた音楽の中でも特筆されるべきものだろう。すでに彼の中で古典的な枠組みなど完全に吹っ飛んでしまい、新しい時代の扉を大きく開いてしまっている。 当時の人にこれがどのように聞こえたのだろう?当時の聴衆にとっては完全な前衛音楽であったに違いない。 優美な第3楽章のメヌエットにいきなりフォルテのアクセントが挿入され、舞曲楽章に対する軽い不満を彼は感じていたに違いない。もっとハーモニーやリズムの冒険がしたかったに違いない。でもこれなどそのままオーケストラになりそうなほど、ベートーヴェンはこの曲の中に様々な楽器の音色を聞いていたと私は考えている。 終楽章はそのリズムの冒険ではじまる。こんなユニークな始まり方を突き詰めて行くことで、第2番の交響曲の終楽章が出来上がるのだろう。全く異なる音楽だけれど…。実際、ベートーヴェンは類型的な作品はほとんど書いていない。いや、よく毎回毎回、獲得したノウハウをサッパリ捨て去って新しいものを作れるものだと、ただただ私のような凡人は感嘆するばかりなのであるが…。 ゲルバーの肉厚で力強いタッチのこの曲の演奏は、長い間敬遠してきたことを後悔させるほど見事な演奏で、このユニークな傑作を聞かせてくれる。見事だ。 写真はルガーノ湖の朝。サン・サルヴァトーレ山の優美な曲線が美しい。
by Schweizer_Musik
| 2010-10-17 08:05
| CD試聴記
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