パガニーニのヴァイオリン協奏曲第1番をクレバースで聞く
作曲者 : PAGANINI, Niccolo 1782-1840 伊
曲名  : ヴァイオリン協奏曲 第1番 ニ長調 Op.6 (1817-18)
演奏者 : ヘルマン・クレバース(vn), ウィレム・ヴァン・オッテルロー指揮 ウィーン交響楽団
CD番号 : PHILIPS/438 774-2



その昔、ハイティンク時代のロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の名コンマスとして有名だったクレバースの演奏するパガニーニである。彼の録音がどの程度残されているのかは知らないけれど、美しい音とノーブルで恣意的な解釈とは縁遠い演奏家で、私の好きなヴァイオリニストの一人である。
モノラル(1955年録音)であるが、フィリップスなので゛バランスが良い演奏で、私としては大変嬉しい一枚である。
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンマスに就任する前、彼は室内オケの指揮をしたりしながら、ソリストとして活躍していたので、こうした録音が残っていて不思議はないが、復刻数が少ないように思う。
キリル・コンドラシンによるシェエラザードが歴史的名盤となったのも、コンドラシンの指揮もあるが、クレバースのソロがあってのことであった。とてつもないテクニシャンでありながら、それをひけらかすことなく、実に音楽的にことを進めていく。終楽章のスピッカートが彼ほど美しく決まっている人も珍しいのではないだろうか?
超高音でのピッチの正確さも凄い。いやテクニックだけで言っても彼の水準の高さは凄まじいまでのものである。
彼は大きな表情でチャームする必要がない。そのまま演奏するだけで充分美しいのだ。この強みは第1楽章のやたら長大で、ゴチャゴチャと鳴る音楽において大きな強みとなる。大きな表現で聞かせれば聞かせるほど、この音楽は下品になってしまうのだ。リッチやギトリスのように下品になることを恐れずにやるのも方法だが、ああいう演奏は何度も聞くにはちょっと辛い。その点、この演奏は何度も聞き返すことが苦痛とならない、品の良さが身上である。
ギトリスやリッチ、あるいはレビンといった華やかさとは一線を画しながら、この聞きようによっては下品極まる音楽を、高尚な世界へと引き上げているのはクレバースあってのことと私は思う。
今となっては、このCD、手に入りにくいとは思うが、機会あればぜひ一聴をお薦めしたい。

写真はベルニナ峠のラーゴ・ビアンコ。
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by Schweizer_Musik | 2010-11-01 22:03 | CD試聴記
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