プーランクのスターバト・マーテルを小澤征爾の指揮で聞く
作曲者 : POULENC, Francis 1899-1963 仏
曲名  : スターバト・マーテル (1950)
演奏者 : 小澤征爾指揮 ボストン交響楽団, タングルウッド音楽祭合唱団(ジョン・オリバー:合唱指揮), キャスリーン・バトル(sop)
CD番号 : Grammophon/F00G 20434



この作曲家は、大変なミリオネアだったそうで、お金のために作曲する必要がなかった。だから音楽が軽妙で、才気に溢れているけれど、心打つものがやや希薄な気がしてならない。
大作を書いて、世に問う必要が無かったため、いくつかのオペラなどを除けば、室内楽とピアノ小品、歌曲などが中心で、大規模なものはやや少ないようだ。バレエやオペラを除くと、シンフォニエッタという傑作があるものの、協奏曲などがいくつかある程度だ。
しかし、このスターバト・マーテルとグローリアは特別の存在で、恐らく古今のスターバト・マーテルの中でも特筆すべき傑作であろうし、多分彼の作品の中でも、最高の傑作と言って良い。
どこか、この曲を聞く時、バッハのヨハネ受難曲を思い出してしまうのだが、冒頭の嘆きのメロディーの提示が、ちょっと似ているようにも思う。ただ、プーランクには珍しく、この部分、美しいだけでない切羽詰まった、真に迫る何かがあるように思われる。
聖母の嘆きを美しいだけでなく、深い信仰心を持って歌い上げたこの作品は、スコアのどの部分も深い感動で溢れている。
作曲者が信頼を寄せていたジョルジュ・プレートルの新盤(EMI/09463 55689 2 9)、ヒコックス盤(Virgin/7243 5 61843 2 9)、デュトワ盤(LONDON/POCL-1644)とともに、この曲の名演としてこの小澤盤をあげるのは間違っていないだろう。
上記の4つの演奏以外にも良い演奏はあるのだろうが、私はこの4つで充分と思っている。それぞれに特徴があるとは言え、そう大きな違いはない。プレートルの演奏は良く言えば大らかなもので、フランス国立管弦楽団のアンサンブルにはやや荒さを感じないでもない。
ヒコックスの演奏は大変慎重で丁寧。但しそれが音楽の生命力をやや殺いでいるところもあり、惜しい。合唱の扱いなどは大変素晴らしいので、無論聞くに値する名演には違いない。
デュトワの演奏は、プレートルの演奏とオケと合唱団が同じで、ソリストだけが違う。ただ合唱の出来が今ひとつで、プレートル盤の感動には遠く及ばず、私はこの盤を取り出すことが一番少ない。
そうした中で、最も平均値の高い演奏が小澤征爾のこの録音なのである。
1987年10月の録音ということで、小澤征爾の最も輝いていた時代の録音の一つ。お聞きでない方はぜひ!!

写真はヌーシャテルの参事会教会。前にも掲載したかも知れない。記憶が…。お許しあれ!
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追記 : 昔、この曲をはじめて聞いたのは確かプレートルの旧盤だった。あれは素晴らしかった…と思う。かすかな記憶をたぐり寄せてみるが、ソリストはレジーヌ・クレスパンだったような気がする。ヘンドリックスも悪くはないが、あちらはもっと良かったように思う。
by Schweizer_Musik | 2010-11-15 18:29 | CD試聴記
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