津田さんのリサイタルのプログラム・ノート
プログラム 宮崎2005年

Scarlatti Sonate E-Dur L.430
(1685-1757)
Beethoven Sonate Op.27 Nr.2 “Mondscheinsonate”
(1770-1827)
(Sonata quasi una Fantasia)
-Adagio sostenuto
-Allegretto
-Presto agitato
Chopin Etude Op.25-1 As-Dur / Op.10-3 E-Dur
(1810-1849)
Mazurka Op.17-4 A-Dur
Ballade Op.47 As-Dur

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Alberto Ginastera Danzas argentinas Op.2 (1937)
(1916-1983) アルゼンチン舞曲集
-Danza del viejo boyero 年老いた牛飼いの踊り
-Danza de la moza donosa 粋な娘の踊り
-Danza del gaucho matero はぐれ者のガウチョ(牧童)
Alberto Ginastera Rondo sobre temas infantiles argentinos Op.19
アルゼンチンの童謡によるロンド

Claude Debussy Clair de Lune (月の光)
(1862-1918)

Sergej Rachmaninoff Moments Musicaux Op.16
(1873-1943) Nr. 5 Des-Dur Adagio sostenuto
Nr. 6 C-Dur Maestoso


解説

1) スカルラッティ ソナタ ホ長調 L.430
 ドメニコ・スカルラッティは1685年、イタリアのナポリに生まれた作曲家です。スペイン皇太子の妻となったポルトガルの公女バルバラの音楽教師となったのが縁で、後半生はスペインの宮廷音楽家として過ごし、同地で亡くなりました。
 彼ははじめは宗教的な作品も書いていますが、スペインに移ってからはもっぱら鍵盤作品を書き続けました。その数なんと550曲。「ソナタ」というタイトルのそれらの曲は、ベートーヴェンなどのソナタと違い、単一楽章による小さな作品ばかりで、長くてもせいぜい4分から5分程度の長さです。小品ながらもその華麗で色彩的な音楽は今日でも大変人気があります。
 このホ長調の作品もそうした作品の一つで、優雅な宮廷風の音楽が味わえます。

2) ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調「月光」
 1801年、ベートーヴェンは、「月光」という名前で今日親しまれている第14番のソナタを書きます。ベートーヴェン自身はただ「幻想的ソナタ」と呼んでいたにだけでしたが、この第1楽章をドイツのロマン派詩人レルシュタープが「スイスのルツェルン湖に映る月光の波に揺らぐ小舟のよう」と言ったことから「月光」という名前で呼ばれるようになりました。
 第1楽章はゆったりとしたテンポで三連符の分散和音がさざ波のように揺れ動き、伸びやかなメロディーがその上に訥々と語り始めます。左手のバスがゆったりと一つずつ順番に下がっていきますが、それが全曲を貫くモチーフとなります。ソナタ形式と言ってもよいのですが、かなり自由な構造で出来ています。
 谷間の百合によく例えられる第2楽章は、とてもチャーミングで、魅力的です。三部形式で出来ていて、第1楽章でバスにあった下降するモチーフが、今度は右手のメロディーに出てきます。
 第3楽章は豪放な楽想を入念に練り上げてソナタ形式にまとめあげた、いかにもベートーヴェンらしいフィナーレです。第1楽章と同様、バスに下降音型が出てきて、全体をまとめあげるのに貢献しています。

3) ショパン 練習曲 Op.25第1曲変イ長調「牧童」、練習曲 Op.10第3曲ホ長調「別れの曲」
 12曲ずつまとめられた二つのショパンの練習曲集は、単なる指の練習にとどまらない芸術性の高い作品として、多くの名ピアニストたちに愛されています。
 作品25の第1曲で両手のアルペジオによる優美な作品で、後の人々によって「牧童」という名前がつけられ親しまれています。アルペジオに乗って右手が歌い上げる素朴なメロディーが牧童の吹く笛の調べを思い起こさせるからこの名前がつけられました。また優雅なアルペジオを指して「エオリアン・ハープ」とも呼ばれることもあります。
 続いて演奏される作品10の第3曲「別れの曲」は、ショパン自身が「これ以上美しいメロディーを生涯に書いたことがない」と友人のグートマンに語っています。それほどの美しいメロディー。今日ではポピュラー音楽にまで編曲されて多くの人に親しまれている名曲中の名曲です。

4) ショパン マズルカ イ短調 Op.17-4
 ショパンの数多いマズルカの中でも屈指の名作と言われる作品17-4は、一部でポーランド時代に書かれたと言われていましたが、その円熟した筆致により、今日ではもっぱらパリ時代のものであると考えられています。内省的で寒々とした主部に挟まれたイ長調のパグパイプ風の伴奏を持つ中間部との対比が鮮やかです。こうしたパグパイプ風の伴奏はマズルカではこれ以前にも多く使われ、ショパンの音楽の民族的な音楽との深い結びつきを表す好例であると申せましょう。

5) ショパン バラード 第3番 変イ長調 Op.47
 バラードとは譚詩曲という訳語があるように、詩を元に作られた器楽作品を言います。ですからこのショパンの曲も元になった詩があるのですが、それがミッキエヴィッツの「水の精」という詩であると言われています。
 詩の大意は次の通りです。
「森をさまよう若者は、湖のほとりで水の精と出会う。若者と水の精は恋に落ち、決して心変わりしないことを誓い合う。また別の湖のほとりで若者は別の美しい女に会うが、この女は水の精の化身であった。女は誘惑して若者の誓いを試す。そして若者がその誘惑に負けてしまった時、女は水の精に戻り若者に抱きつくとそのまま深い湖水の底へと引きずり込む。後には静寂が残った。」
 1840年から翌年にかけて書かれたこの作品は、当時のパリの社交界の好みを反映したもので、他の3曲のバラードに比べるとはるかに軽快で華麗な作風によっていると申せます。音楽は洗練の極みに達しており、彼の傑作の一つと言えましょう。

       ============= 休 憩 =============

6) ヒナステラ アルゼンチン舞曲集 Op.2
 ヒナステラは今日ではピアソラの先生として知られていますが、二十世紀南米の作曲家としてはヴィラ=ロボス、カルロス・チャベスといった人達とともに最も重要な作曲家です。
 彼はアルゼンチンの民族的な素材をもとに数多くの作品を残しました。戦後一時期、モダニズムを目指したヒナステラであったが、基本的にアルゼンチンの民族的な素材を中心に作品を作曲した。
 彼はスイスのジュネーヴに1971年から住み、スイスで活躍するチェリストの愛妻と過ごしていた作曲家は、亡くなるまでその創造力は全く衰えることなく、晩年に至っても愛妻のために書いたチェロ協奏曲第2番など、傑作を残しています。
 そうしたヒナステラのこのアルゼンチン舞曲集は彼の最初期の1937年の作品で、第1曲「年老いた羊飼いの踊り」、第2曲「粋な娘の踊り」、第3曲「はぐれ者のガウチョ(牧童)の踊り」という3曲からなり、民族的な舞踊のリズムが積極的に採り入れられた曲集となっています。

7) ヒナステラ アルゼンチンの童謡によるロンド Op.19
 戦後の1947年に書かれたやさしい作風による曲です。ヨーロッパからアルゼンチンに伝わったという古い童謡のメロディーをもとに、ヒナステラ自身の子供達のために書かれました。

8) ドビュッシー ベルガマスク組曲より「月の光」
 1890年に書き始められたこの組曲は、出版が1905年と遅く、この間、かなりの推敲が行われたと想像できますが、定かではありません。しかし、その精緻なピアニズムは後の前奏曲集や映像を予告するもので、初期の作風を色濃く残しながらも傑作として知られています。中でも第3曲の「月の光」は独特の美しいメロディーと響きによって人気の名曲となっています。聞く者に「月の光」を連想させると言えば、第1部で弾かれたベートーヴェンのソナタと双璧ですが、その表現している世界の何と異なることでしょう!

9) ラフマニノフ 楽興の時 Op.16より第5曲変ニ長調、第6曲ハ長調
 ラフマニノフは大変傷つきやすいデリケートな心の作曲家でした。ですから自信作であった第1交響曲に対する心ない酷評に対して、二年以上も全く作曲できないほど大きな痛手を被ることとなりました。
 この2年間の空白の前、最期に書かれたのがこの「楽興の時」で、初期のサロン風の作品から大きく芸術的にも成長した充実した曲集で、作曲されてすぐに出版されています。
 第5曲変ニ長調は「バルカローレ(舟歌)」で、ラフマニノフはこのスタイルでいくつかの作品を書いていますが、その最初の作例と言ってよいでしょう。左手のさざ波のような伴奏の上に訥々とメロディーが流れていきます。第6曲ハ長調は劇的でしかも堂々としており、全曲を閉じるスケールの大きな曲になっています。
by Schweizer_Musik | 2005-04-24 17:32 | 原稿書きの合間に
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