マーラーの第9を昨年のルツェルン音楽祭のライブ映像で
タイトル(or 曲名) : マーラー/交響曲 第9番 ニ長調 (1908-09)
出演者 : クラウディオ・アバド指揮 ルツェルン音楽祭管弦楽団
DVD番号他 : arte edition/ACC 20214



昨年のルツェルン音楽祭でのライブである。そして私はこの時、この演奏を聞いていた。私の人生の中でもエポックとも言える得難い体験であった。大金をはたいて出かけただけのことはあったと思った。
あのコンサートの数日後にすでにテレビでこのコンサートは放映されていたし、私も滞在していたホテルでそれを見た。感動がすぐに甦ってきて、涙が出て困ったものだ。
そしてDVDをようやく見ることができた。朝昼兼用となってしまった食事を摂りながら見ていて、つい見とれてしまって1時間近く…。おかげで作りたてだったはずのチャンポン(冷凍ものだけど…)がすっかり冷めてしまった…(笑)。
マーラーの第9である。アバドによるこの演奏は、大音響で驚かせるようなものではない。驚くべき集中力で奏でられるピアニシモの彼方から彼岸の響きが聞こえ、天国へと続く澄み切った蒼空へと続くかすかな風の音に耳を澄ますかのような音楽だ。バルビローリの力演も良いけれど、この演奏はそれと対極にあるかのような演奏だ。それが恐るべき深淵を垣間見せてくれるのだから凄まじい。
ルツェルンのホールで実際に聞いた時の印象からすると、やはりちょっと歯がゆいところもある。それは仕方ないのだ。それでもとてもよく当日の雰囲気をとらえていると私は思う。
クラウディオ・アバドの指揮はもう神がかっているとしか私には思えない。デカイ音響で、爽快感を味わいたいならこの演奏は聞くべきではない。昔の方が確かに力強いクラウディオ・アバドの指揮が聞けた。しかし、昔の演奏からは得られなかったものがこの演奏にはある。それが何なのか、私のつたない文章力では伝えられない…。けれど、当日、会場にいた人々のみなそれを感じ取っていた。
第4楽章の最後の音が消えてなお長い長い沈黙。アバドが手を下ろし、静かに振り返ってからも茫然自失の聴衆は、まだパラパラと拍手が始まったばかり。お辞儀をする指揮者を見て、ようやく気がついたように拍手のクレッシェンドが始まり、長い長い間をかけてこれがブラボーの嵐へと上り詰めていくことで、あの日の奇跡がどれほどのものだったかが偲ばれよう。
この名演を実際に聞くことができたことが、未だに信じられないほどで、我が身の幸せを噛みしめながら、今日、二度目となる終楽章に差し掛かったところである。

写真は、その演奏会の始まる前。会場で撮ったもの。係員がいたけれど、特に咎められなかったので、撮って良かったのではと、勝手に信じてここにあげておこうと思う。
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by schweizer_musik | 2011-05-15 12:46 | DVD/スカパー!視聴記
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