作曲者 : RACHMANINOV, Sergei 1873-1943 露
曲名 : ピアノ協奏曲 第1番 嬰ヘ短調 Op.1 (1890-91) 演奏者 : レナード・ペナリオ(pf), アンドレ・プレヴィン指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 CD番号 : BMG/BVCC-38475 プレヴィンがまだロンドン交響楽団の音楽監督になる前の録音であるが、1964年にRCAに録音したこの演奏は、ラフマニノフの第1番の演奏史でも特筆されるべき名演なのである。 柔軟で変幻自在のピアニスト、レナード・ペナリオは完璧なテクニックで余裕綽々で音楽をむしろゆったりと繰り出してくる。プレヴィンは全くどこにも力が入っていないから、ペナリオの演奏にピタリとつけてそれを盛り上げていく…。なんて良い演奏だろう…。 ペナリオをハリウッド御用達の軽いポピュラー・ピアニスト(ポップスのピアニストが聞いたら気を悪くするだろう…)と蔑んでいた日本のエライ評論家の先生方にぜひブラインドで聞いてもらって批評してほしいと思う。 冒頭のピアノの入りが、獲物に掴みかかる鷹のような鋭さを多くのピアニストは表現しているが、ペナリオは全く逆を行っている。それでも続く主題の抒情的な歌と深い対比を形作り、音楽は次第に熱を帯びていき、やがて白熱した世界が現出するのである。 ロイヤル・フィルのアンサンブルはとても良い。ビーチャムの手を離れて後、様々に辛酸をなめたこのオーケストラもまだ黄金時代の残照に包まれているようである。 後にロンドン交響楽団から離れたアンドレ・プレヴィンが音楽監督を引き受けたのも、この頃からのつながりがあったからなのではないかと、私はこの演奏を聞きながら勝手に思っていた。 いつも、退屈させられる第2楽章も、ペナリオとプレヴィンの演奏では全く退屈することはなかった。色彩的なハーモニーの変化が、実に美しく表現されていて、ラフマニノフ独特の長い長いフレーズを支えて、ピアノは伸びやかに歌い上げているのである。 後年の第2番や第3番の緩徐楽章のような大きな起伏に欠けるから、この楽章は私にはちょっと苦手な部類に属しているのだが、ペナリオとプレヴィンの演奏で聞くと、そうした冗長さは感じられない。 終楽章の冒頭も速すぎず、かといってモタモタもせず、この完璧なテンポ感が何とも心地よい仕上がりとなっている。中間部のAndante ma non troppoの部分の柔軟なテンポ・ルバートを用いながら、淀みなく音楽が流れていく様は見事であるし、だからこそ前後の速い部分との対比が際立つ。 良い演奏は数あれど、それらの中でも少なくともベスト・スリーに入る録音である。 写真はラッパーツヴィルのお城。
by schweizer_musik
| 2011-06-07 17:37
| CD試聴記
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