作曲者 : SPOHR, Louis (Ludewig) 1784-1859 独
曲名 : クラリネット協奏曲 第1番 ハ短調 Op.26 (1809) 演奏者 : エルンスト・オッテンザマー(cl), コリン・デイヴィス指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 CD番号 : PHILIPS(TOWER RECORDS企画)/PRCD-1126〜7 このシュボアの協奏曲は、クラリネットに関わる人の間では有名であるものの、それ以外ではあまり出てこない。今でもクラリネット協奏曲というと、モーツァルトの専売特許のような状態が続いているが、それではとってももったいない。こんな良い曲があるのだから。 シュボアには4曲のクラリネット協奏曲があるが、ハ短調で書かれた第1番は、多分最も演奏機会の多い作品であろう。 18世紀のはじめにクラリネットが作られ、次第に演奏する人も増えてきて19世紀に入ると、ほぼオーケストラの木管パートの常連となったが、18世紀にはまだそれほどではなかった。モーツァルトのト短調交響曲(K.550)ははじめクラリネットなしで書かれ、後にクラリネットが入った版が作られていて、モーツァルトにしては珍しく改訂を行ったことでも知られている。 それはともかく、クラリネットをソロにして協奏曲を書くようになったのは18世紀終わりになってからなのである。 さて、この協奏曲は急ー緩ー急の3つの楽章からなり、第1楽章は短いオケの提示の後すぐに独奏が登場する。主題の動機がハイドンの交響曲第95番にそっくりなので、ちょっと驚かされるけれど、これが展開部にはいると、同じ動機を使っているだけあって、偶然かも知れないが、びっくりするほど同じ展開が出てくる。 もちろん、そんなことでこの曲の価値が下がるとすかいうものではない。この曲のメロディアスでロマンチックな風情は他でそう味わうことのできないものであるからである。 シュボアはヴァイオリニストでもあったからか、クラリネットの高音に全体として偏りがちで、ヴァイオリンを弾いているかのように休みが少ない。これが、この曲の大変なところで、展開部の高速の分散和音など、至難である。 それでも多くのクラリネット奏者がこれに挑むのは、この曲の独特の抒情性に惹かれるからではないだろうか? 第2楽章はシュボアらしい長いフレーズが印象的ないかにもロマン派の作品といった見本のようなテーマが出てくる。シュボアは初期の作品ほど面白いという話を聞いたことがあるが、確かにそんな気がする。特にメロディーの伸びやかさは絶品だ。 とても短い(3分ちょっと)楽章ではあるが、印象に残る音楽である。 終楽章ロンドで書かれ、まだ若い彼が「レチタティーヴォの形式で」などの協奏作品を書いたような独特の、伝統を無視したかのようなものを作り出すところまでは行っていないかわりに、古典的な形式感の中で、新しい時代の息吹を感じさせてくれるあたりを耳を澄ませて聞きたいものである。 ベートーヴェンが活躍し、ハイドンが亡くなった年、シューベルトはまだウィーン少年合唱団で歌っていた頃、ゴータ宮廷楽団の指揮者をしていたシュボアによって、この曲が書かれたのである。 彼がウィーンに出て来て、アン・デア・ウィーン劇場の楽長を務めるのは四年後のことであった。 ウィーン・フィルのクラリネット奏者、エルンスト・オッテンザマーとコリン・デイヴィスの指揮するウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によるこの演奏は、この曲の最も美しい録音だと思う。 しばらく廃盤で手に入りにくかったのだが、タワー・レコードのおかげで、人に薦めやすくなったことは大変ありがたいことである。 写真はラッパーツヴィル城の前の広場から見たチューリッヒ湖の風景。
by Schweizer_Musik
| 2011-09-02 19:35
| CD試聴記
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