ドヴォルザークの「民謡の調べで」をルチア・ポップの歌で聞く
ドヴォルザークの「民謡の調べで」をルチア・ポップの歌で聞く_c0042908_9495116.png作曲者 : DVOŘÁK, Antonín 1841-1904 チェコ
曲名  : 民謡の調べで "V národním tónu" Op.73 B.146 (1886)
演奏者 : ルチア・ポップ(sop), ジェフリー・パーソンズ(pf)
CD番号 : ORFEO/C 363 941 B(DL)



これは、ザルツブルク音楽祭のライブ・シリーズの一つ。今は亡きルチア・ポップの美しい声が楽しめる。思いの外、彼女のリートの録音は少なく、もっと聞きたかったと思うが、これが録音されていたことをまずは素直に喜びたい。
ドヴォルザークと言えば、「新世界」と「アメリカ」で終わっている方には、ぜひこうした優れた歌曲も聞いて欲しいと思う。
1曲目の「おやすみ」のなんと美しいことか!!
「おやすみ、ぼくの恋人、神様の祝福がありますように」と歌うその歌詞はたわいもないものであるが、それがメロディーを持つと不滅の力を得るのだ。それをルチア・ポップほどの人が歌うと深い感動をもたらす…。ああこんな歌が私にも作れたら…。
1886年に書かれたものだから、ドヴォルザークも円熟の境地に達していたのだろう。一分の隙もない見事な曲集である。

第2曲「草を刈る娘」は、娘と若者の出会いを素朴に歌い上げている。ティミショアラの近くとあるからルーマニア?。でも歌詞はスロヴァキアのものと聞いたけれど、どうなっているのだろう?
それはともかく、反復を多用したメロディーが平行調との間を揺れ動く様は、なんとも民謡風で美しいし、ルチア・ポップの歌も絶品だ。

第3曲「ああ、何もない」は面白い曲だ。
「ああ、ないの、私を喜ばせてくれるものは、みんな私の好きでないものばかりくれる。私にくれるのは男やもめ、心が半分しかない…」という歌詞を実に抒情的な歌い上げているのだ。
きっと失恋の歌なのだろう。歌詞がそれにしてはユニークで、それを美しいハーモニーとメロディーを与えたドヴォルザークの手腕の冴えに脱帽…である。

第4曲「エイ、私は良い馬を持っている」も失恋の歌。
「エイ、私は良い馬を持っている、私をどこにでも運んでくれる/エイ、私は小鳥を持っている、足を折ってる小鳥
/私におくれよ、恋人よ、ひとしずくの水を/エイ、私はひとりの乙女を持っていた/火花のような/だけど私を裏切ったのさ、心に矢を撃ち込んで」
という歌詞を持つこの曲は、この曲集の白眉とも言える劇的な歌曲だ。男声の方がこの曲だけは合っているようにも思うのだが、ルチア・ポップは全く不足を感じさせない力強さを持っている。これによって、この歌の主人公の強さが真実味を帯び、音楽が大きく広がっていくのである。
1981年のザルツブルク音楽祭でのライブで、他の歌も全て素晴らしい歌ばかりで、共演のパーソンズも完璧なピアノを聞かせてくれる。ムーア、ボールドウィンなどとともに、この世界で常に第一人者でありつづけた一人であるだけに、その長い経験に裏打ちされた演奏は、ポップの歌と相まって深い感動に満ちている。
まだお聞きでないリート・ファンはぜひ一度お聞きになってみられることをお薦めしたい。

写真はツェルマット近くのフィンデルンの集落。
ドヴォルザークの「民謡の調べで」をルチア・ポップの歌で聞く_c0042908_10454765.jpg

by Schweizer_Musik | 2011-11-08 10:45 | CD試聴記
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