バーンスタインのニューヨーク・フィル盤である。この後何度かこの曲を録音し直しているが、この録音はバーンスタインのこの曲の録音の中でも最も個性が弱いと思う。しかしそれ故にマーラーの音楽が自然に呼吸しているようで私は良いと思うのだが如何だろう。
第一楽章は、やや燃焼不足の感もあり、彼ならばもっと燃え上がるような演奏が可能だろう。しかし、冷静にバランスをとりながら集中していく様はなかなかのものだ。ショルティのようにキビキビしすぎた演奏ではこのうねるような情感は出てこない。これこそがバーンスタインの指揮だ。レオポルド・ストコフスキーもこの曲をロンドンで録音しているが、あれはちょっと?だった。ロンドンでの「復活」と言えばやはりテンシュテットだろう。あの青ざめた演奏はバーンスタインとは対極にある。しかし、何と重いものを彼は背負っているのだろう。最初から彼は燃え上がらない。内に秘めたものが次第に飽和状態に向かい、そして全面的な崩壊に繋がっていく。その過程に安らぎの満ちたメロディーと皮肉にみちたリズムがある。これはテンシュテットからしか聞くことはできない。 この面でバーンスタインは直情的で一本調子とも言ってよい。テンシュテットの屈折の仕方は尋常ではないと思う。しかしバーンスタインの演奏は親しみやすさがある。テンシュテットの演奏のように深い傷を負っていない健康がベースにあると思う。これがこの演奏の魅力の全てではないだろうか。 曲のアンサンブルは見事と言って良い。ニューヨーク・フィルは本当は上手いんだなぁと思う。しかし、このオケは手抜きをよくしてくれるので、どうも私の信用が今ひとつだ。この演奏における彼らはベストを尽くしていると思う。 第2楽章ののどかなダンスは、このバーンスタイン盤以上のものがあるだろうか?同じオケを振ったワルターの演奏はここまでチャーミングではなかった。このワルターの演奏は「巨人」ほどの高みに達していないというのが私の意見。これはテンシュテットの名演に比べるとよりその思いを強くする。もちろん凡演などでは決してないのだが、こちらの耳が肥えてしまったのだ。 ミヒャエル・ギーレンの演奏も悪くないのだが、彼は情緒というものをどこかで切り捨ててしまうところがある。この第一楽章であれほどの名演を聞かせながら、第2楽章でサラサラと流してこの楽章の持つ意味「この敬愛する死者の生涯の中の至福の瞬間。彼の刺繍と、もはや失われてしまった無邪気さへの哀愁に満ちた追憶」というマーラー自身の言葉からするとやや離れているように思う。 こうした面でテンシュテットとバーンスタインは理想的だ。ストコフスキーは明らかに違和感がある。彼は早くからこの作品をとりあげていたが、演奏はちょっとマーラーとかけ離れているように感じる。 他にあげるとすれば、ベルナルト・ハイティンクのクリスマス・ライブ(1984年)だろう。テンシュテットと全くことなる表現ながら、最高のレベルに達しているものとしてあげられよう。アバドのものは二種類とも今手元になく、確認できなかった。小澤征爾の録音も残念ながら手元にないので聞きくらべできなかった。 「不信仰と否定の霊が彼をとらえた。混乱した様々な夢を見る」という第三楽章の混乱はテンシュテットほどでなくともバーンスタインは十分に表現している。ハイティンクのライブ盤がこれに続く。カノン的にレントラーの舞曲が展開しているところにないきなりブラスのファンファーレが鳴り響いたりと、音楽が全く脈略なく混乱していくのに、あまりに整理されすぎてしまうと、この楽章の面白さが半減してしまうのだが、バーンスタインの真っ直ぐな解釈はありのままのマーラー像を描くことで、この複雑な楽章を見事に表現している。 第四楽章の「原光」はリー・ヴェノーラ(sop)とジェニー・トゥーレル(messo-sop)によって歌われる。これはいつ聞いても感動的な楽章で、中間の三楽章を締めくくるものとして大変見事な効果を持っている。ただトゥーレルの歌については、好き嫌いがはっきりでるだろう。私は十分に美しいと思うが、声がやや個性的で、これがルートヴィヒだったらとかいう贅沢なことをいいたくなるのも事実である。 終楽章の感動的な表現は、バーンスタインの独壇場だ。テンシュテットはここでも天国にはいけない。彼は心から歓喜していないのだ。しかしバーンスタインは違う。彼の歓喜に一点の曇りもない。そのあどけないほどの純真さはおそらくマーラーの本質なのではないだろうか。だからこそあれほどに精神が引き裂かれていったのだと私は思う。 私はテンシュテットの表現とバーンスタインどちらも好きだ。長大なこの交響曲のフィナーレを感動的に最後の歌い上げるカレジェート合唱団もまた大変優れた演奏である。祈りの深さ、重さをこれほどストレートに表現されるともはや感動する以外にないだろう。後年の円熟した彼から失われてしまった輝きをこの演奏からたっぷり味わうことができる。その意味でこの1963年の録音はかけがえのない価値を持ち続けている。ヴェノーラとトゥーレルの歌はとても良い。名演である。歴史的に評価の定まった名盤故に推薦も何もあったものではないのだが、やはり無印では失礼だと思うので特薦とさせていただく。 マーラー全集第一巻/バーンスタイン/SONY/73DC221〜3
by Schweizer_Musik
| 2005-05-29 08:11
| CD試聴記
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