色々なマーラーのCDが出ているが、これだけブームともなると、変わったものも聞くことができるようになってくる。もう十年ちかく前に購入した室内楽版の「大地の歌」もそうしたものの一つで、フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮アンサンブル・ミュジック・オブリクの演奏である。歌手はハンス・ペーター・ブロホヴィツのテノール(これが素晴らしい!!)とビルギット・レンメルトのアルトである。
シェーンベルクの編曲としていることも多いが、これは間違い。企画といくつかのスコア制作には関わっているかもしれないが、実際にアレンジしたのはリーンという作曲家である。しかし、重要なパッセージと音色は残しての室内楽編曲は巧妙を極めていて、素晴らしいものだ。 第1楽章の「現世の悲しみを歌う酒宴の歌」の空元気のようなテノールと悲しげなアンサンブルの対比がとても面白く、バランスもとっても良い。ホルンの空元気に呼応するかのようなテノール。ブロホヴィツはただ元気ではない、底の知れない悲しみを感じさせてくれる。 第2楽章の「秋の日に独りありて」の序奏はさすがに弦の量感がなく、雰囲気が消し飛んでしまい、ちょっと現実的に聞こえすぎるというか見えすぎてしまうような感じ。ビルギット・レンメルトの歌は表現が少し硬い。ヘレヴェッヘの指揮も少しテンポを前のめりにする傾向があり、ちょっと落ち着かない。声は大変良いと思うが、響きに奥行きがないようだ。リバープを多めに採り入れているが、しかしこの楽章の幻想的な詠嘆は表現し切れていないと思う。オケの個々の技量の高さは素晴らしいだけに惜しい。 第3楽章「青春の歌」は名演!速すぎず、遅すぎず。打楽器が少し遅れたりする箇所が1〜2カ所あり、何度も聞き返すものだけに惜しいが、歌は全く理想的なコンディションだし、その他のパートはとても良い。打楽器の奏者のこの曲のテンポととうとう合わなかったのか? 第4楽章「美しきものを歌う」はレンメルトの歌は少し地味すぎるか?伴奏も合わせているという感じで、何だか焦点が絞り切れていない感じで、どうもいけない・・・。この歌手の問題なのだろうか?指揮者と合っていないのか?ルバートをかけているところも恣意的で、私はとらない。 第5楽章「春の日を酔いて暮らす」は酔っぱらいの歌。それも深い諦観を底に秘めている。ブロホヴィツの歌は全く素晴らしいものだ。レンメルトの時には不安定極まるアンサンブルがこの歌手に対しては、ピッタリと焦点が合うというのは、やはり歌手の力量の問題かもしれない。 終楽章「告別」はここまで聞いてきて大きな不安の中で聞き始めることとなる。 しかし、アレンジは素晴らしいものだ。よく小さな編成でこの曲をここまで再現できたものだ。オケはとても良い。冒頭の腰の低い響きは、原作のイメージを明らかに含んでいる。これがルートヴィヒだったらとない物ねだりをしても始まらないのだが、レンメルトは明らかにこの長大な楽章を持て余している。オケとの不安定な関係は大分この楽章では感じられず、それほど聞きにくいものにはならなかったが、この楽章にあるべき母性の深い愛情に昇華されるべき空虚なる魂は、最後まで癒されぬままになってしまい、どうもストレスがたまってしまった。 アンサンブルは素晴らしいものだ。オーボエの心のこもったソロは素晴らしい。しかし・・・。ああ、アルトに人を得ればもっと良かったに違いないのに。***はプロホヴィツの名唱を捨てるには惜しいからであり、アンサンブルの見事なサポートを無にするのは悲しいことだと思うから。レンメルトは良い声を持つ歌手だし、これからの成長を期待したいが、この曲を歌うには無理だった。プロデューサーの判断ミスだと思う。 harmonia mundi/KKCC-297(HMC 901477)
by Schweizer_Musik
| 2005-06-13 10:47
| CD試聴記
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