マーラーの交響曲第4番の謎
マーラーという作曲家は実に不思議な作曲家だ。先日、第5の交響曲についてエントリに対して、そのテーマが第4番の第1楽章の展開部の終わりに出てくるのは何故?という"じぃさん"のコメントに、数日にわたって考えさせられてしまった。確かにそのフレーズは出てくる。その部分のスコアを参照してみよう。
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実はこの前の220小節でグランカッサにこのリズムが出現するのだが、これはちょっと気が付かない場合が多いようだ。そして主題の展開としてトランペットに副次的な動機が拡大され、それが下り落ちるところから、第5番のテーマがオブリガートとして第1楽章の様々な動機の波間から浮かび上がってくるのだ。トランペットの三連符にまざってホルンの三連符がエコーのように書き込まれているが、これはあまり聞こえないことが多い。しかし、その後、ミュートをつけた(con sordの指定があるところ)からの三連符は明らかに第5番のフレーズです。それも第5番の調で・・・。
第1番から第3番までの「子どもの魔法の笛」と「さすらう若人の歌」に繋がる作品と、第5番から第7番までの器楽三部作の間に位置する第4番は、ベートーヴェンの第4番と同じように、谷間の百合のような存在だ。だが、ベートーヴェンの第4が優しげな音楽でないように、このマーラーの第4も天国を描きながらも端々にぽっかりと悲劇が口を開けているような、恐ろしさも秘めているのだ。
第2楽章の悪魔的なヴァイオリン(ニ調に調弦された響きがヴァイオリン・セクションとあえて異質にして、気持ちの悪い響きを求めるという手法を使っている)のソロが印象的だ。これは死の神ハインの弾くフィドルなのだそうだが、こう聞くとストラヴィンスキーの「兵士の物語」にもどこかでつながっているようだ。そのヴァイオリンに先行しているオーボエとファゴットの可愛い連打は、冒頭の序奏からとられたものだ。冒頭では天国的な世界を導き出したそれは、ここでは死の神の先導役となる。
第3楽章の天国的な響きは、第5番のアダージェットに似ていると私は昔から思っているのだが、あちらよりもこちらの第4番の緩徐楽章はもっと屈折していて、あちらこちらに悲劇は口を開けている。それは半音階を拡大して下降する音型の顕著だ。
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これは第3楽章の205小節から215小節にかけてだが、この部分はまるで天国から一気に地獄に落とされるように深刻でうめくような音楽ではないか!
天国的なサウンドに浸っているとこうした音楽でドキッとさせられる。マーラーは決して一筋縄ではいかない。こうした音楽を書く人だから、第10番のクラスターのような響きが書けたのだろう。技法の問題ではない。それによって表現したものが問題なのだ。
c0042908_19224819.jpgここにソプラノの美しい歌が入る。テンポは様々に変化し、音楽がいきなり悲劇調になるかと思えば、天国を甘く歌い上げたり、そしてコラール風の荘厳なメロディーがそれに続いていくといった具合。その旋法を用いたコラール風の部分を左にあげておく。
このめまぐるしくテンポ、曲調を変えるという音楽は、実は書き手としては意外に難しいもので、何しろまとまりがなくなってしまい、散文的になりかねない方法なのだ。もちろんマーラーほどの作曲家がそのような素人くさい失敗をするわけがないのだが・・・。
しかし、全編、天国の楽しい生活を讃える歌詞によるこの音楽の伴奏のそこかしこに死神がひそみ、悲劇の響きが隠されているというのは、何ともマーラーらしいというべきだろう。
by Schweizer_Musik | 2005-06-13 18:43 | 原稿書きの合間に
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