ドビュッシーの前奏曲集第一巻「沈める寺」を分析する。
冒頭の湖に沈む寺から浮かんでくる泡のような動機が最初に提示される。そしてこの中にこの曲の中の全ての構成要素が含まれている。 この動機は、次の音列が繰り返されたものだということはすぐに理解できることだろう。 2度と5度が組み合わされたこの3音は実は5音音階(ペンタトニック)によっている。ドビュッシーは作品の中でモード(旋法)とペンタトニックを組み合わせて使用することが大変多いが、ここでもそういう実例に出会うこととなる。 この沈める寺から立ち上ってくる泡の中から、静かに鐘の音と祈りの歌が聞こえてくる。このメロディーはcis音を根音とするエオニア旋法ではじまり、途中でgis音を根音とするエオニア旋法に移調するものである。あるいはcis音を根音とするドリア旋法であると解釈することもできなくはない。 cis音を根音とするドリア旋法を紹介しておく。 続いてcis音を根音とするエオニア旋法。 続いて、gis音を根音とするエオニア旋法。 ではこの祈りの歌の譜例を示しておく。 このメロディーの中には最初の「泡の動機」で示されている音程が含まれていることがわかる。 コラールは全く別の世界から生まれたものではなく、最初に示されたメロディーの中から導き出されたものなのである。 このメロディーは一度だけサラリと示されただけで、冒頭の「泡の動機」が繰り返されて三度転調(ここを聞いてラヴェルの「ダフニスとクロエ」の夜明けのシーンを思い出す人もいるだろう。)を繰り返し、次第にクレッシェンドしてフォルテシッモに至るのだ。ピアノの低音で鳴り響く鐘の音の上に、沈める寺のテーマが(仮に教会のテーマとしておく)朗々と響きわたるのだ。 そして このテーマも冒頭の「泡の動機」から導き出されたことは明白である。この上行の音列からはじまり、長い下降するスケールの中に実は「泡の動機」の音列の反行形が隠されているのだが・・・。 このメロディーは基本的にミクソリディアであると解釈するのが適当であろう。 教会のテーマが終わると、今度は静かなGis(嬰ト音)の保続音の上にさきほどの祈りのテーマが響く。このメロディーは敬虔な祈りを表現していることは明らかだ。落ち着いた響きと決して激さない(ほとんどがpかpp)表情からもうかがえる。 そしてこのメロディーには反行形の音列による後半が続く。 この新たなメロディーの後半は意味深である。ここのメロディーは明らかにfis音を根音とするドリア旋法でできている。ということは、コラールの前半も基本的にドリア旋法なのか?私はこの解釈で迷ったままになっている。その日によってドリアに思えたり・・・。 このドリア旋法のメロディーを昔女声のソロにしてアレンジしていたのは、冨田勳氏であった。「月の光」と題されたドビュッシーをモーグ・シンセサイザーでアレンジしたあのアルバムは、若かった私に大きな影響を与えたものだった・・・。 コラールに対するソロによる応唱のようなイメージなのではないかと私は考えているのだが、みなさんはどうお考えになられるだろうか。 さて、この部分の左手に冒頭の「泡の動機」が隠れているのに注目したい。すでに教会は再び湖底に沈み始めているのだ。 続いて教会のテーマが厳かに演奏されているその低音には、もう鳴り響く鐘の音はなく、沈んでいく姿が描かれているように私は思う。 そして最後にまた「泡の動機」が再現されて、曲は閉じられる。私はアルド・チッコリーニの新しい録音で聞くことが多い。このピアニストほど日本で過小評価されている例を私は知らない。素晴らしいピアニストなのに・・・。
by Schweizer_Musik
| 2005-06-26 19:01
| 授業のための覚え書き
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