第1部
この曲でドビュッシーは20世紀の扉を開いたのでした。 冒頭のフルートの半音階的なテーマは、夢のようにふわりと響きます。伴奏もなく、ただフルート一本に託したこのメロディーはホ長調で書かれながらも、嬰ハ音からト音へと半音と全音を経て増4度の音程を舞い降り、そしてゆったりと舞い上がると、明らかなホ長調の部分を経て属調へと落ち着きます。 すでに通常の調性は極限までに拡大され、古典的な調性感は火星の大気のごとく希薄になり、存在を主張していません。 ホルンの少し大きなため息がこのフルートに答えます。ためらいがちに、大きなゲネラル・パウゼを伴って。 ホルンは遠隔調の和音の上をさまよい、夢幻的な雰囲気を醸し出しています。ハーモニーはその連続性を失っています。このメロディーは先のフルートのソロの裏返しで、ホ音からはじまり変ロ音まで舞い上がるという構造を持っています。この増4度がこの曲の核心であるようですね。 こうしてテーマが何から出来ているかが、私たちの心に印象づけられ、さらにそれを深めようとテーマが繰り返されます。 この繰り返しはメロディーはもとのままなのですが、弦によるコードがついていて、それがニ長調の和音というのは、面白いものです。確かに冒頭のメロディーは調性的に何とでも解釈できるものです。そしてこの後ろに、興味深いオーボエのメロディーが続きます。 このメロディーは次の音程から出来ていますね。 そしてまたテーマが繰り返されます。ここではメロディーにちょっとした変奏が加えられていますが、単に装飾的なものにすぎません。が、なんて効果的なのでしょうか。ドビュッシーは本当にフルートをよく知っているものです。 ドビュッシーはここではじめてホ長調でテーマを伴奏し、この2小節のテーマの前半に対して後半を省略して前半のメロディーを三度下げて繰り返し、更にこの形を繰り返し、次第に盛り上げていきます。 こうしてこのメロディーは聞く者の心深く、印象づけられるのです。 このドビュッシーの作品は1892年の作曲ですが、ここから次の部分にいく途中に半音階と全音音階の並置という興味深い部分が続きます。 この部分、ワーグナーの「トリスタンとイゾルテ」の遠いエコーを聞くというのは、私の考えすぎでしょうか? 考えてみれば、彼の「ペレアスとメリザンド」もこの「トリスタンとイゾルテ」のドビュッシー流の解釈であると言えなくもないでしょうし・・・。 さて、この二重の意味で興味深い瞬間を経て、第2部に音楽は移ります。
by Schweizer_Musik
| 2005-06-30 19:10
| 授業のための覚え書き
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