牧神の午後への前奏曲の聞きくらべ
牧神の午後への前奏曲のスコアに取り組んでいた時に聞いていたのは、アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団のステレオ録音盤だった。
この演奏は、スコアを正直に音にしたところがあり、実際に鳴っている音をとてもうまく録ったなという印象。ただ、それよりも大きなテンポの変化、指示のないところでも大きくリタルダントをするなど、アンセルメ流の解釈が目立つように思う。
例えば、展開部の管楽器による変ニ長調の美しいメロディーが弦に移るところで大きなルフトパウゼをいれるなどが指摘できる。これはモノラルの録音でも同じだったから、彼の解釈として定着していたもの(決して思いつきでやっていたのではない)と考えられる。ただ、ステレオ録音盤よりもモノラル録音の方が、こうしたテンポの変化が自然で流れが良いように思うが、やはり音の良い方を選ぶべきか?(アンセルメ/フランス音楽の全て/LONDON/POCL-9589〜604) ***(注目)

私がこの曲を初めて聞いたのは、ミュンシュ指揮ボストン交響楽団のLPであった。RCAから出ていた廉価盤のシリーズで中学生の時に初めて聞いて、夢中になった。
ミュンシュはアンセルメのように説明過多の演奏とは違う。だからテンポも大きく動かさない。またディナーミクも大きく変化をつけていない。アンセルメと全く違った美学によって演奏されていることは明らかだ。さりげない流れの中に千変万化の表情が揺れ動く。これぞ名人芸!である。ただ、並み居る名盤の中ではちょっと地味な印象は否めない。
また、ボストン交響楽団の腕は、(スイス贔屓の私にはちょっと残念なことだが)スイス・ロマンド管弦楽団の敵ではない。なんて上手いのだろう。ハープはスイス・ロマンド管弦楽団の方が上手いと思う。特に前半のちょっとしたフレーズがぎこちなく感じられるのは、惜しいところである。また、RCAのちょっとこもった録音(1956年1月23日ボストン・シンフォニー・ホールでの録音)も、考慮する必要があるだろう。ということで***(注目)である。(BMG/BVCC-7925)

ポール・パレー指揮デトロイト交響楽団(Mercury/434 343-2)は、ミュンシュが名人芸でさりげなく演奏しているのに対してもっと大きな表情でこの作品を演奏している。テンポを指示のないところでアンセルメのようにはほとんど動かさないのだが、ずっと雄弁である。1955年の録音ということで、音の面では多少のハンディはあるが、分離のよい復刻で私は十分に満足している。
フルートのソロが誰だか知らないが、とても良い演奏だ。ハーブも良い。これが最新録音だったらという気がしないでもないが、十分に****(推薦)に値する名盤だ。(Mercury/434 343-2)

1950年代の録音の最後はドビュッシーの盟友アンゲルブレシュトの演奏を紹介しよう。デジレ=エミール・アンゲルブレシュト指揮シャンゼリゼ劇場管弦楽団,デュフレーヌ(fl)のこの録音は、1954年にリリースされたもので、この前年あたりに録音されたものだろうか。
録音が古く、モノラルであるため、微妙なバランスをとらなくてはならないところで、メロディーが他の声部にマスクされてしまったりということがないわけではないが、この演奏の持つ雅な雰囲気は、あまりに独特で、かけがえのないものだと私は思う。展開部の弦のメロディー、木管の三連符の高音での伴奏の絶妙なところは、録音の優劣を忘れて聞き惚れてしまった。オケはもちろん大変優秀。(EMI/TOCE 6378-81)
この録音は今はテスタメントあたりから輸入盤で手に入るはずだ。ぜひ購入をお薦めしたい。****(推薦)

続いて60年代の録音から。ピエール・モントゥー指揮ロンドン交響楽団の演奏(LONDON/223E 1131)は1961年12月の録音という。私が高校に入った頃によく聞いた演奏だ。確かGT-????という番号で1300円で買った。良い演奏だった。ふわりとしたオケの質感はこの曲のイメージに合っていたし、それに大変気品があった。
テンポの変化は比較的大きくとられているが、ディナーミクの変化が全面に出ることはない。アンセルメの演奏に似ているのだが、オケの音色を上手にブレンドしているので、雰囲気はこちらの方が上だ。ただ、曲の立体的な構造はやや平面的にぼかされている印象。きれいな演奏だが、今一つ・・・***(注目)

ピエール・ブーレーズ指揮ニュー・フィルハーモニア管弦楽団の演奏は、人工的なバランスを感じさせる。フルートはソロらしくない音。上手いんだかどうなんだか、さっぱりわからない。少なくとも表情は平板。
この演奏。ピエール・ブーレーズにしてはテンポが走り気味で、どうも落ち着かないのだが、みなさんはいかがお感じになっているのだろう。
また、逆に遅い部分では腰が重く、今ひとつ流れが悪いように思う。ブーレーズに合っていないのではないだろうか。ニュー・フィルハーモニア管弦楽団は、例の一方的な解散劇(日本でも同じようなことがありましたねぇ・・・)の直後で、アンサンブルは良いのだが、なんだか音楽に集中しきれていないような(これは考えすぎかも)気がする。時折顔を出す弦のポルタメントもちょっと時代錯誤か。1966年12月19日〜21日ロンドン、パーキング・タウン・ホールで録音された全集の中の一枚。
後にもっと優れた演奏を再録音しているので、これは忘れた方が良いのかも知れない。(SONY-Classical/73DC 242〜4) **

1970年代の録音ではまず、オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団の演奏(BMG/9026-61211-2)である。
この演奏はもうプロ中のプロの手になる芸術品である。テンポを大きく変えて非常に説明的な演奏になっているが、それが小賢しいと感じることは全くない。それは、フィラデルフィア管弦楽団のとんでもない腕利きたちのおかげだろう。ムレイ・パニッツのフルートは名演だ。また、おそらくランシーのオーボエも・・・。テンポを大きく落としても音楽の前進する力を失わない。展開部へ移るところ、そして弦にそのメロディーが移るところは、この曲の最も大きな聞き所と言ってよいが、こうしたところで見事な手際で曲をまとめあげるのが、オーマンディである。この個性を虚心坦懐に多くの人に楽しんでもらいたいと思う。
あと一歩、この演奏に欠けているものというと、もう、フランス語の語感のようなもので、これはあくまで私の主観的な感想である。表情が大きすぎ、身振りの大きさが音楽の高雅な雰囲気を壊しているように思うのだ。で****(推薦)とする。

続いて1973年9月に録音されたジャン・マルティノン指揮フランス国立放送管弦楽団の演奏(EMI/CC33-3622)を紹介したい。
ああ、この演奏が私の決定盤なのだ。マリオンのフルート・ソロは絶品。これ以上の演奏があるのだろうか。テンポはどこもこれ以外に考えられないと思われるほどの絶妙のテンポであり、重要な声部が、他の声部にマスクされるようなこともなく、それでいてどのパートも美しく鳴っているのだ。
ハープは名演だ。この曲でハープの存在が重要なのはわかっていたが、このハーブの雅な響きが、アンサンブルに美しいアクセントとなることを、このマルティノン盤ほど強く意識させるものは少ない。(せいぜいアンセルメ盤くらいだ)
この全集盤を大学の時に手に入れて、スコアを大枚はたいて(親戚から借金をして)買った時のことを今も忘れない。今聞き返して、改めてこの演奏の唯一無二の素晴らしさに酔った。良い気分だ。*****(特薦)

他にピエール・ブーレーズの新盤、ベルナルト・ハイティンクの録音などがあるのだが、マルティノンで決定盤となってしまったので、他はまた今度・・・
by Schweizer_Musik | 2005-07-02 22:36 | CD試聴記
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