マイケル・レビンというヴァイオリニストをご存知だろうか?
彼は、神童として一世を風靡したが、キャリア半ばで演奏活動を中断し、やっとニューヨーク・フィルのコンサート・マスターとして復帰が決まったところで、1972年1月19日、自動車事故に遭いわずか35年と八ヶ月あまりの生涯を終えた。 彼は子どもの時から神童としてもてはやされ、録音もその時代から残されているようだが、キャピトルからCD6枚に集成されているそれがほぼ全てのようだ。1960年にキャリアを中断し、演奏活動からはなれているので、24才で演奏家として終えたことになる。 彼の弾いたパガニーニの24のカプリースを聞いてみてほしい。颯爽として華麗で、輝きに満ちたその響きで弾ききったレビンの演奏は、二度にわたって録音したサルヴァトーレ・アッカルドなど、いくつか良い録音はあっても、これほどまでに心揺さぶられるものはなかった。私はその後、全くことなる世界をこの曲から引き出して聞かせた若干17才の五嶋みどりの録音を聞くまで本当に満足できるものはなかった。 天才とは彼のような人を指すのだろう。 パガニーニの協奏曲第1番など、古いモノラルとステレオの2種類ありものも多いが、総じて古いモノラルの方が魅力的である。はち切れそうな若さ、喜びに溢れているからだ。パガニーニの協奏曲を楽しんで聴けたのは後にも先にもレビンの演奏だけであった。 しかし、若くして才能を開花させた音楽家の多くが、キャリア半ばで精神的に不安定な状態に陥ることが多くあるように思われる。例えばメニューインもそうだったようで、ちゃんとした教育を受けないで、華やかな演奏活動に身を投じることの危険性を感じていたことが、あれほどまでに教育活動に熱心だった理由でもあるようだ。 レビンもそうした精神的な不安定さをどう克服していいのかわからなかったのではないだろうか。24才で演奏家としてのキャリアに休止する直前の演奏からは、初期の覇気あふれる勢いは消え失せ、何か抜け殻のようになっていた。 キャピトル・レーベルから6枚にまとめられた録音が出たのは、もう十五年ほど前のことだった。あわてて買い求め、この才能の大きさに改めて感動したものだ。今聞き返しても、その印象は変わらない。 自動車事故さえなければ、ニューヨーク・フィルのコンサート・マスターの席に彼が座っていたはずだった。そうすれば彼のソロもまた再び聞けたはずだった。大人の音楽家に成長した彼の深い味わいを聞けたかも知れない。でも神様はそれを許してはくれなかった。
by Schweizer_Musik
| 2005-08-20 19:33
| 過去の演奏家
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