B級?否!A級!名演奏家列伝 -13- ヘルマン・クレバース
ヘッツェルは悲劇的な死で、強い印象を残したが、彼のようなコンサート・マスターは他にも何人かいる。今回はロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の名コンサート・マスターとして名高い、ヘルマン・クレバースについて。

1923年6月18日にオランダのヘンゲロというところに生まれたらしいが、どういうところかは私は知らない。9才の時に初めてのリサイタルを開いているから、当時は天才少年として話題になったことだろう。1943年3月にはあのメンゲルベルク指揮するロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団とブラームスのヴァイオリン協奏曲を録音している。20才のクレバース青年による初めてのメジャーな作品の録音ということで、注目できるし、これを含めて三度録音しているほどの彼の十八番であった。
この1943年4月13日のライブでのブラームスは、当時としては十分な解像度の演奏で、メンゲルベルクの素晴らしいブラームスを聞くには最高のものであるしメンゲルベルクが合わせ物で聞かせる指揮のテクニックには本当に舌を巻かざるを得ない。そしてクレバースのヴァイオリンはたっぷりとした抒情と凛々しさで際だった演奏ぶりを示している。
1950年からはハーグ・レジデンツ管弦楽団のコンサート・マスターに就任する。若くしてオランダを代表するオーケストラの一つのアンサンブルのトップの座に座った彼は、同時にソリストとしても活躍している。この頃の録音として、私が持っている中では、ウィレム・ヴァン・オッテルロー指揮ハーグ・レジデンツ管弦楽団によるバッハの二つのヴァイオリンのための協奏曲と、二十世紀オランダの最も重要な作曲家の一人バーディングスの2つのヴァイオリンのための協奏曲がある。後にクレバースとともに1974年から10年あまりにわたってロイヤル・コンセルトヘボウ管のコンマスをつとめた同僚テオ・オロフが共演しているのも興味深い。オロフもまた大変な名手だったのだが、この録音、バッハはコンサート・マスター就任2年目の1952年に録音されているのだが、大変優秀な録音で、今聞いても全く色あせたところのない、最高級のモノラル録音で、ずっしりとしたバッハが聞ける。
またハーディングの作品は緊張感にあふれた作品で、弦楽の扱いを知り尽くした現代作品である。こちらは1955年の録音でオッテルローの現代物ということでも興味深いものがあるが、期待を大きく上回る出来映えで、おそらくはバーディングもこれほどの名演奏で自作が世に出て行くことに心から満足していたことだろう。
またウィーン交響楽団などともパガニーニのヴァイオリン協奏曲なども録音しているし、確か私が最初に聞いたクレバースのレコードはフォンタナ・レーベルの廉価盤で、ヨルダンス指揮ブラバント・フィルハーモニー管弦楽団というよく知らないオーケストラとのブラームスとブルッフのヴァイオリン協奏曲の録音であったが、録音年月日はわからないのだが、恐らくこの頃録音されたのではあるまいか。
1950年代はハーグでのコンマスと同時に、ソリストとしても活躍していた。
1962年のシーズンから、前年より常任指揮者となったハイティンクとヨッフムが率いるロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンサート・マスターに就任した。以降、18年にわたるクレバースのコンマスの時代が、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の最も輝いていた時代だった(と私は思っている)。
クレバースはコンセルトヘボウ管の首席奏者たちで活動していたアムステルダム室内管弦楽団ともよく共演してバロック音楽なども演奏している。彼自身が指揮をしてのテレマンや、マリヌス・フォールベルクの指揮によるヴィヴァルディの「四季」などもあり、積極的に様々なアンサンブルに参加している。
また同僚となったロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の名チェリストであるティボール・マヒューラと古巣のハーグ・レジデンツ管弦楽団とオッテルローの指揮によってブラームスのドッペル・コンチェルトの録音も1969年に行っており(ライブ)これなどは、オイストラフとフルニエ、ジョージ・セルによる名演などと対極にあるような流麗な名演で、あのオイストラフたちによる熱いパッションと違った、風通しの良さが身上の名演となっている。どちらが好きかとか、どちらの方が優秀かなどと聞かれても困る。どちらも!!と思うばかりだ。
1970年代に入って、ベートーヴェンやブラームスをハイティンクの指揮で録音しているが、彼のような地味な存在をレコード・メーカーも一生懸命宣伝して回らなかったこともあるし、そうした雰囲気におされてか、積極的に評価する人もないままになってしまったのは残念だ。
しかし、キリル・コンドラシンがロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団を指揮するようになって、あの「シェエラザード」の超名演や、ツィガーヌが録音され、彼のヴァイオリンの群を抜く素晴らしさに気付いた愛好家も多いと思う。
また、レナード・バーンスタイン指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のベートーヴェンのミサ・ソレムニスでヴァイオリン・ソロを弾いていたのも彼だったし、今も簡単に手に入るものとしては、同僚のオロフやマヒューラと共にソロをつとめたハイティンク指揮の「ドン・キホーテ」であろう。
しかし、彼のことをより理解するためには前記の協奏曲録音をぜひいつでも手に入るようにしておいてもらいたいものだ。
また1977年に録音されたモーツァルトのオーボエ四重奏曲の録音はまだ若かったハインツ・ホリガーの名演であると同時に、クレバースの数少ない室内楽の録音としても貴重だ。ハインツ・ホリガーはこの後、再録音しているので、手に入りにくいものとなってしまったのは残念だ。
1980年にロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンマスを辞めたクレバースはアムステルダムの音楽院の教授として、また各地でのマスター・クラスで後進を指導している。その名教授ぶりはよく知られているし、門下から世界的に活躍しているヴァイオリニストを数多く輩出している。フランク・ペーター・ツィンマーマンや我が国の天満敦子などが彼に師事している。いや、若手のヴァイオリニストで、そのマスタークラスを受けたという演奏家は数多くおり、ネットで検索をかけるとやたらとヒットするだろう。
日本にも度々来ていて、マスター・クラスを行っている。その際は教え子の天満敦子さんが模範演奏をするために呼ばれることもあったみたいだが、私はこれは聞いていない。
こうしたヴァイオリニストをもっと知ってもらいたいものだが、現実には忘れられていくのは仕方ないことなのだろうか?残念なことだ。
by Schweizer_Musik | 2005-09-03 02:54 | 過去の演奏家
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