ラフマニノフ/ピアノ協奏曲/ツィメルマン(pf),小澤征爾指揮ボストン交響楽団 *****(特薦)
夏休みにダウンロードしたラフマニノフのピアノ協奏曲を聞く。良い演奏だ。ツィメルマンのアレグレッシブな演奏は見事!というべきだろう。小澤征爾の指揮は近年稀に見る出来映えだ。最近になってこれがレコード・アカデミー賞をとったCDだということを知る。全く知らなかった。ただ第1番の演奏でジャニス以外、あまり面白いものが無かったこともあって聞いてみようかと思ったに過ぎないのだが、これほど満足したピアノ協奏曲の演奏と言えば、昔ラドゥ・ルプーの弾いたグリーグとシューマンのピアノ協奏曲を聞いた時以来ではないだろうか。
聞きながら、第1番が意外なほど室内楽的なソロを多用していることに気が付いた。派手なオケとソロの掛け合いだけでない奥深さを感じさせてくれる演奏でもあり、アルゲリッチのように、ただ速いテンポで飛ばして、もの凄い緊張感を醸し出すという演奏とは全く違うのだ。(私はアルゲリッチの最近の演奏は全て嫌いなのだ。1970年代までで彼女の録音は買うのを止めてしまった。だから、ルガーノ・ライブも結局買わず・・・。スイス好きとしてはどうかとも思うが、好みでないのだから仕方ない。まぁ、CCCDであったから尚更だったのだが、結局出鼻をくじかれてしまった形で、今後とも聞く気になっていない。
あっ、また話が横道に逸れてしまった。
今、第1番の第2楽章に入ったところ。この第2楽章は私の苦手な音楽の一つなのだ。バラバラと即興的なピアノ・ソロが延々と続く冒頭から、どうもとらえどころが無くって、何を聞いて良いのかわからない。木管が絡んできてようやく焦点が少し合ってくるのだが、ピアノが自分に酔ってしまって、わけがわからなくなる演奏がどうも多いのだ。ツィメルマンもそうした側面を持っているが、彼は一本調子になることも、やたらとルバートしてわけがわからなくならないよう、実に聡明にそうした方向を避けているように思う。オケはとてもよく歌う。
第2番の第2楽章のような、うっとりさせるようなメロディーやサウンドはこの曲にはないが、私は十分に楽しんで聞いていた。
第3楽章のオケとピアノの緊張感に溢れたやりとりは、凡庸な指揮者、ピアニストでは絶対に無理だ。オケがとてもよくピアノに反応している。彼らの鋭敏な耳と、それをまとめ上げたマエストロの勝利だろう。第二主題の郷愁にあふれた響きもよくとらえている。あの上手いプレヴィンですら、やはり中庸を行きすぎてこうした場面の情感をとらえ切れていないように思う。ハイティンクも同様。小澤征爾は一歩も二歩も音楽に踏み込んでいっている。この積極性が、これらのエキスパートたちと一線を画する名演を生んだとも言えよう。
このラフマニノフのピアノ協奏曲第1番を聞いて、こんなに感動することがあるとは、自分も思っていなかっただけに、この演奏は意外な驚きであり、また感銘深いものだった。更にそれをわれらが小澤征爾(彼はやはり日本人指揮者としてとてつもない器の持ち主だ!!)がやりとげたこと゛かとても嬉しい!!
レコード・アカデミー賞の季節だそうだ。私はレコード芸術誌を今月から買うのを止めてしまったので、どうということはないのだが、これほどの名盤。さすがにアカデミー賞の審査をする評論家の先生方は見逃していなかったということのようだ。
しかし、ずっと買っているのに知らなかったとは・・・。考えてみれば、海外盤のレビューと広告以外、ロクに読んでいないものなぁ。
by Schweizer_Musik | 2005-09-26 23:34 | CD試聴記
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