津田さんにリサイタルを聞いて
今、津田理子さんのピアノ・リサイタルから帰って来たところ。ベートーヴェンの熱情にアルベニスのイベリアから二曲、そしてブラームスの第三番のソナタというプログラム。アンコールに子犬のワルツと練習曲Op.25-1「エオリアン・ハープ」、そしてヒナステラのアルゼンチン舞曲集 Op.2の第2曲「粋な娘の踊り」が演奏された。
「熱情」については余りに多くの名演がデフォルトで頭に入ってしまっているので、津田さんの緊張感にあふれた素晴らしい演奏でも、どうしてもしっくりくるものがなかった。もちろん凡演であるはずがない。第2楽章の深い呼吸は、やはり素晴らしいものだった。
続いてアルベニスが演奏される。日本人がスペインものをというと、私の友人の多くはすぐに首をかしげる。そんな人にはぜひ津田さんのアルベニスを聞かせたい。絶妙な間を感じさせてくれる希有なピアニストである。彼女がスペインで高く評価されたことを思い出す。なるほど、これかと・・・。
アルベニスで私は津田さんの得意とするもう一つの世界を聞いた。しかし、私は特に後半のプログラムであるブラームスのピアノ・ソナタ第3番が気に入った。というより、すっかり魅せられてしまった。ブラームスの若い頃の曲は、実は波長が合わないのか、どうも苦手な曲が多く、手を出さないで来た。この第3番もそんな音楽で、ツィメルマン、マガロフ、カッチェン、アラウ、E.フィッシャー、ハイドシェックと私の友人のピアニストである松村英臣君の七種類の演奏を聞いただけである。実演は無かったと思う・・・。
そんな私であったが、今日はじめてこの苦手のブラームスの第3ソナタを聴いて感動した。
津田さんの重心の低いずっしりとしたタッチから、羽根のような軽さと柔らかさを持つタッチまでのその幅広い音色が、ブラームスの音楽のために徹底的に奉仕される時、その表現の奥深さ、立体感は抜群となる。
若いブラームスの音楽が、これほどスケール豊かに響いたことはなかった。
第1楽章冒頭の動機の三十二分音符を弾き飛ばさず、はっきりと弾いて印象づけるのは、はじめて聞いた解釈だったが、この第1楽章から津田さんのブラームスの解釈は一貫したもので、確信に満ちていた。どこにも迷うところなく弾ききるその演奏は、さすがベテランのしたたかさと、一途に作曲者に迫る清々しさに満ちていた。
第2楽章のアンダンテ・エスプレシーヴォのブラームスらしい分散和音のメロディーを一転して羽根のような柔らかさで歌い上げ、私はこの曲がこんなに美しい音楽だったのかと、改めて思った次第。
後はもう出て来るフレーズ全てが魔法のようだった。つまらない表現だがこうとしか言いようがない。良い演奏会だった。明日は学校だ。試験休みが終わって、後期が始まる。また忙しい日々が始まる。そのスタートで良い音楽を聞くことができた。

いつもながら誠実な解説(プログラム・ノート)だった。スマートでかっこいい演奏とは違うが、本物の感動を得ることができる、そんなピアニスト、津田理子さんをもっと多くの人に知ってもらいたいと思っている。
10月6日には名古屋でもリサイタルが行われる。このたった二回だけの帰国コンサートだ。名古屋方面の方はぜひ!!お薦めしたい。
by Schweizer_Musik | 2005-10-04 00:13 | 音楽時事
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