時を告げる音
ローザンヌの大聖堂には時を告げる人が今もいる。テレビでも何度か紹介されているので、ご存知の方も多いことだろう。
夜の10時から深夜の2時まで、1時間毎に「今、何時だ」と大聖堂の塔の上から時を告げる鐘の音ならぬ人の声が響き渡る。この時代に必要かどうかは別にして、「観光用」という側面も少しはあるにしても、伝統を維持するヨーロッパの心が見えてくるようである。

時を告げると言えば、人の声よりも鐘の音の方が一般的だろう。ヨーロッパの教会などの鐘楼はそうした役目を担っていた。我が国でもお寺の鐘が時を知らしていた。今は「騒音」だとかいう理由で、その習慣は無くなってしまった。
マンションのベランダに風鈴をつるすだけでクレームが来る時代である。その割には駅のアナウンスや発車ベルをうるさいと言う人はいない。ホント、変な国である。そして我が国の伝統は失われてしまった。
音に対する伝統を、庶民文化の中で残そうという発想はどうも我が国にはないようだ。

ヨーロッパに戻ろう。昔は村の、あるいは町の鐘の音が届く範囲がその村の権力の及ぶ範囲であった。田舎の方に行くと、そういう発想はまだ生きているのだ。だから、鐘楼はその村の象徴で、大切にされた。

モーツァルトの手紙の中に「塔の音楽家」という記述があるそうだ。塔の音楽家というのは、時を告げるホルン奏者やトランペット奏者のことで、塔からトランペットやホルン(別に合奏しているのではない。もちろんソロだ!)が吹奏して時を告げていた。
こうした金管楽器は狩りにも使われたし、戦争などでも使われた。
ウィーンではホルンだったと、どこかで読んだ気がするが良く憶えていない。
佐伯茂樹氏が書かれた<<名曲の「常識」「非常識」>>という本の中でも触れられていることであるが、ベートーヴェンの「田園」の終楽章の最後でホルンにミュート(弱音器)が要求されているのだが、これは時を告げるホルンの夜の音だったそうだ。
ホルンがミュートをつけて倍音を静かに吹奏しているのを聞いたウィーンの人々は、夕べの時を告げるホルンを連想したに違いない。

音楽には色んな聴き方があり、こうした背景を知らずにいてもかまわないのだが、知ることによってより音楽が立体的に聞こえてくるものだと、私は思う。
いかがだろう。
by Schweizer_Musik | 2005-10-10 19:23 | 原稿書きの合間に
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