B級?否!A級!名演奏家列伝 -24- ピエール・デルヴォー
指揮者が巨匠と呼ばれるようになる条件の一つに「長生きであること」があるそうだ。今から13年前に75才で亡くなったデルヴォーは、もう少し長生きできれば、ひょっとすると巨匠と呼ばれたかも知れない。エコール・ノルマルで長く教えていたこともあり、我が国の松尾葉子氏や矢崎彦太郎氏も彼の弟子である。更に作曲家としても交響曲や歌劇もあるそうだが、私は聞いたことがない。更に得意としたというベルリオーズなどの録音も知らないので、彼の指揮芸術を語るだけの資格は私にはないのかも知れないが、わかる範囲で彼について述べたいと思う。

フランスの指揮者ピエール・デルヴォーは、セーヌ・エ・オワーズ県のジュヴィシ・シュル・オルジェで1917年1月3日に生まれた。音楽的に恵まれた家庭に育ち、パリ音楽院に進みイシドール・フィリップとイヴ・ナットにピアノを、そしてジャン・ガロンとノエル・ガロンに和声と対位法を学んだという。私も大学時代にガロンの本を教科書に勉強したものだが・・・。
で、パリ音楽院を卒業してパドルー管弦楽団の打楽器奏者として入団。そして、1947年には指揮者としてこのオーケストラでデビューを飾っている。
彼はその年、パリ・オペラ座の指揮者になり、なんと1970年までパリ・オペラ座の指揮者として活躍したのだった。1949年からは、パドルー管弦楽団の音楽監督も務め、1964年からはカナダのケベック交響楽団の音楽監督も務めた。この間、1958年以降はコンセール・コロンヌ管弦楽団の指揮者としても知られ、ここでのベルリオーズのシリーズは大変な評判をとったものだという。
1971年にはフランス政府の文化政策により、ロワール・フィルハーモニーが創設される。オペラ座の指揮者としてフランスの音楽界の重鎮として知られたデルヴォーは、創設されたばかりのロワール・フィルの初代の音楽監督に指名され、就任している。ロワール・アトランティク県のナント市とアンジェ市を本拠地として活動するこのフランスの地方オーケストラは、故にフランス国立のオーケストラなのだ。デルヴォーがこのオーケストラの音楽監督の座にあったのは1971年から1978年だった。ちなみにデルヴォーのあとはスーストロが音楽監督になり、1994年から現在のユーベル・スダーンが音楽監督となっている。名称も時々フランス・フィルハーモニーなどの名前で出ていて、なかなかややこしい。1996年に晴れてロワール地方国立管弦楽団と名称を変更。
デルヴォーとこのオーケストラとの録音はいくつか残されている。私のお薦めとしてはダンディの「ヴァレンシュタイン」などが良いだろう。しかし、デルヴォーはパリ・オペラ座の指揮者として長く活躍したのだ。彼の歌劇の代表盤として何をあげればいいのだろう。
私は昔ビゼーの歌劇「真珠とり」を持っていた。良い演奏だった(と思う。自信がないのCDに買い直さずそのままになっているからだ。しかも先日レコードを一斉に手放した時に一緒に売ってしまった)。しかしビゼーの「カルメン」は代表盤ではないだろうか。1980年、パリ・オペラ座でのライブ収録のDVDである。ベルガンサ、ドミンゴ、ライモンディ、リッチャレッリという豪華なキャストでいかがだろう。
CDはその多くが廃盤になってしまった。ウルフ・ヘルシャーというヴァイオリニストと録音したサン=サーンスのヴァイオリン協奏曲全集は手に入りやすいかも。ただヴァイオリンの音色がやや金属質で私はあまり好んで聞いてはいない。
それならば、サン=サーンスの交響詩集の録音(EMI/TOCE-7261)がいいのではないかと思う。1971年秋、パリ管弦楽団を指揮したこの一枚は、洒脱としう言葉をそのまま捧げたいような演奏ばかりだ。例えばジャン・マルティノンが指揮した「死と舞踏」のデッカ盤(DECCA/448 571-2)は、このオーケストラの前身であるバリ音楽院管弦楽団の演奏であるが、音楽の迫力は多少ゆずるにしても、実にバランスがよろしい。キビキビとして聞きやすい。「オンファールの糸車」はミュンシュ指揮ボストン交響楽団(BMG/BVCC-5039)の高速運転の糸車とトマス・ビーチャム指揮ロイヤル・フィル(EMI/CDM 7 633379 2)の低速糸車がある。この二つが私は最も良い演奏だと思うのだが、これにジャン・マルティノン、ルイ・フレスティエ盤が競合していて、最近はどれが一番とは言いにくくなっている。そこにデルヴォーはトマス・ビーチャムのゆったりとした演奏を新しく仕立て直したような居心地の良さで演奏している。ああこれでまた迷う対象が増えてしまった・・・。
バランスの良さ、それがデルヴォーの身上ではないだろうか。だからシャブリエの管弦楽曲集なんていうのが、華麗さや迫力よりもバランスの良さが特徴となる。一方、有名なスペインなどは少々飛ばしすぎの感があったりで、なかなかこの指揮者、一筋縄ではいかないものを持っている。しかし歌劇「いやいやながらの王様」の中の「ポーランドの祭り」や歌劇「クヴァンドリーヌ」序曲などは最高の演奏を聞かせるし、前者では合唱の扱いの上手さも聞くことができる。
しかし、私は若いデルヴォーがパリ・オペラ座管弦楽団を指揮して録音したバレエ音楽「ラ・ペリ」が彼の代表盤として推薦しておきたい。(EMI/CDM 7 63160 2)
ジャン・マルティノンの指揮するデュカスの交響曲の余白に収められたこの演奏は、1957年の録音で、デルヴォーが最も輝いていた時代の録音だと思う。華麗でそしてバランスの良い、実に見事な録音である。
同じ頃、フランス国立放送でナヴァラと共演しておそらくは放送用に録音したハチャトゥリアンのチェロ協奏曲ホ短調(VOGUE/672013)など、あまり知られないものだが、あまりに見事で私のこの曲のデフォルトになっている。

このフランスの指揮者としては、オペラを中心に活躍したこともあって、我が国では人気のある指揮者とはならなかったが、実力はとして知られたデルヴォーは、1992年2月20日、マルセイユで亡くなった。亡くなってもう13年が経った。リバイバルする兆しはなく、彼も忘れられた過去の演奏家の中に加えなくてはならない。
by Schweizer_Musik | 2005-10-10 23:31 | 過去の演奏家
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