セル指揮ウィーン・フィルのブルックナーの第3番の映像をクラシカ・ジャパンで見る。以前の放映の時に録画してあったのをようやく見たのだが、なかなか面白かった。何がかというと、この指揮者がブルックナー指揮者として今ひとつ我が国で人気が出ないのはどうしてかわかった気になったのだ。
まず気が付いたのは、アインザッツが正確でアンサンブルがとても引き締まっていること。引き締まったオーケストラのアンサンブルから繰り出されるサウンドは、朝比奈隆などの重心の低い重厚なサウンドに対して、風通しの良いサウンドとなっていることだ。 ただ、録画は白黒だが画質はまずまずで満足できるものの、音はかなり物足りなく、このサウンドは聞こえたままに書いているに過ぎないので、当日会場にいたとしたら、随分ことなる印象を持ったかもしれない。 とは言え、ウィーン・フィルがベームなどの指揮で聞かせるこの曲の響きと全く違うのには当たり前のことながら、セルの卓越した指揮技術に感心させられてしまう。 続いて気が付いたことは、深い呼吸から来る「タメ」が少し浅いというか、あっさりと盛り上がっていくこと。現代の指揮者のブルックナー演奏にも多いのだが、これによって音楽の流れがとても良いのだ。 しかし、一方でこれがハンス・クナッパーツブッシュや朝比奈隆のブルックナーの演奏を愛して止まない人達から微妙な違和感を感じさせていることは理解できる。 ブルックナーの音楽にフルトヴェングラーのようなアチェレランドやリタルダント、アゴーギクが多く含まれていると違和感を訴える愛好家は多い。朝比奈隆やクナッパーツブッシュの演奏はそうしたテンポの変化がないとは言えないが、この深い「タメ」が音楽を雄大にしていくのだ。セルはもちろんイン・テンポなのだが、そのテンポの取り方がクナッパーツブッシュなどと違いもっと直線的であるのだ。 しかし、ヴァントなどの演奏は実にこのセルの演奏に似ていると思うのだが、違うだろうか?ヴァントの第3番の録音を引っ張り出して聞いてみたが、なんとなくよく似ているように思えるのだ。 あれほど日本でブルックナーの演奏で人気があった指揮者である。その演奏とよく似たすっきりとしたブルックナー。だからと言ってブルックナー独特のスケール感に欠けることのない演奏は、私には十分魅力的だと思うのだが・・・。 これに気が付いてまたわからなくなってしまった。何故セルのブルックナーが人気がないのだろう・・・。どうもブルックナー指揮者として認められるには全曲録音しないといけないらしい。何度も全集録音した朝比奈隆を始めとしてヴァント、ヨッフムなどはこうした条件に当てはまるのだ。ではベームは?クナッパーツブッシュは?シューリヒトは? やっぱりわからない・・・。それに全集録音しているのに、さっぱりのカラヤンはどうなのだろう? こうしたことを思いながら、タンホイザーやトリスタン、ワルキューレの引用がそこかしこに隠れているこのブルックナーの名作をセルの快刀乱麻の指揮で聴くのはとても楽しいことだった。 ウィンナ・ホルン(フレンチと違う!!)やコルネットのようなトランペットの柔らかな響きに、まだウィーン・フィルがローカルな特色を色濃く持っていた時代の良さが全面に出ていて、このビデオは私にとってやはり永久保存版になりそうである。 クラシカ・ジャパンに感謝だ!!しかし月3000円は高いなぁ・・・。
by Schweizer_Musik
| 2005-10-13 10:13
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