テオドラキスの作品集 シャルル・デュトワ指揮 *****(特薦)
c0042908_22312749.jpgシャルル・デュトワの指揮したテオドラキスの作品集を聞く。
この作曲家の作品を私は熱心に聞いてきたわけでは全くないが、この中に入っている映画「その男ゾルバ」のサウンドトラックはEP盤で持っていた記憶はあるのだが、その音楽は全く憶えていない。
また大学を卒業して就職してから、テオドラキスが時のギリシャ政府にとらえられ獄中にあることを知ったのだが、それは、テオドラキスを救えというエラートから出ていた彼の友人たちが録音したLPによるものだった。
その後、何曲かのテオドラキス作品を聞いている。中でも素晴らしいと思ったのは1983年の作品である交響曲第7番「春」である。キタエンコ指揮モスクワ・フィル他の演奏(LE CHANT DE MONDE/LDC 278 787)は、強烈な印象を与えたものだった。
モードの組み合わせによる強烈な原色の音は、洗練とは対極にあるような生命力に満ちあふれていた。ロシアの合唱団も大変良い演奏で応えていたし、あの録音は私の中ではテオドラキス体験の中でも特別のものだった。

「その男ゾルバ」は1964年の映画であるが、その中からテオドラキスはいくつかを選んでバレエ音楽にした。1990年代はじめの頃のことだそうだ。このCDはその中からの抜粋というわけで、なんとなく聞き覚えのある「ゾルバの帰還」からはじまる。合唱がはいる音楽。メロディーは一度聞くと忘れられない強い個性を持っている。一般的な調性音楽で、何か新たなことを表現できる可能性がこんなにも残されていたのだ。当時の前衛は新しい語法をたくさん開拓したが、結局一般的なものとならなかったのは、こうした素朴な生命力に応えるべき内容をスタンダードとして持ち得なかったからではないか?ものすごくいい加減な論法なので、テキトーに流していただきたいが、まあそんなことを思ってしまうほどなのだ。
続いて、シーン14の「小さな星」。イオアナ・フォルティのヴォーカルがなんとも艶めかしく聞こえてしまうが、シャルル・デュトワの指揮するオーケストラは大変雄弁だ。
「マリーナ」の音楽も雄弁極まりない。音の構造は極めて単純で、オルフの「カルミナ・ブラーナ」のように簡単な音の重なりで出来ているのだ。そして更にポピュラリティーがある。
ポピュラー音楽の世界でも売れたというが、なるほどと思う。考えれば、ギリシャのニーノ・ロータなのだ。
モントリオール交響楽団との久しぶりの録音というが、シャルル・デュトワに衰えや角がとれて丸くなったようなところは皆無だ。説得力抜群の音楽が次から次へと繰り広げられていく。
映画音楽の心地よい響きを期待するなら、このCDは買わない方が良い。しかしシュニトケの音楽のような独特の説得力を持つ、極めてユニークなアイロニーに満ちた世界がここにはある。
スチール・ギターの安っぽい響きも彼にかかると魔法のように命が吹き込まれる。そして力強い合唱の叫びにも応えるのだ。

あと2曲、バレエ音楽「謝肉祭」からの3つの小品とフルート・ソロと弦楽、打楽器のためのアダージョも触れておかねばならない。
「謝肉祭」はどういう筋立てのものかはわからないが(ダウンロードで聞くというのはこういう不便もあるのだ。なのに金額は輸入盤とそうかわらないというのは、メーカー、レーベルがこのダウンロードの仕事に大して全く本気でないということだろう。どこかが、低価格で打ち出せばいいのだ。そうすれば、こうしたいい加減な仕事をする怠慢サラリーマンは一掃される・・・。
話が横道に逸れてしまった。
謝肉祭からは「男の踊り」「少女の踊り」そして「愛の踊り」という3曲が演奏される。なんとも意味深な曲名だが、その通り受け取ればいいのだろうと思う。音楽は「ゾルバ」に比べればずっと聞きやすい甘い響きに満ちている。ポピュラー音楽のようにはいかないが、親しみやすいメロディーと響きに満ち、もっと演奏されてしかるべきだ。
録音はこの分は2004年で、オケもフィルハーモニア管弦楽団になっている。すこしだけ弦の響きが重いようにも感じるが、それは名前を読んだからかも知れない。
フルートと弦楽、打楽器のためのアダージョは、単純な分散和音にのって現れるフルートが瀟洒な響きを出していると思ったら次第に深刻になっていき、グランカッサのロールが被るといきなり葬送の音楽のような深刻さ、悲しみを歌い始める。聞き始めるとちょっと止められなくなるほどこの音楽は魅力的だ。
マーラーやショスタコーヴィチとまた違う、深刻さ、深い暗さ・・・これはピアソラの悲しみに満ちた響きにも通じるものを持つ音楽家の作品である。心からお薦めしたい。

デュトワ/テオドラキス作品集_DECCA_UCCD-1119
by Schweizer_Musik | 2005-10-15 22:33 | CD試聴記
<< 剣客商売を見ていた・・・ NHK教育テレビの世界美術館紀... >>