アルバン・ベルクの作品1のピアノ・ソナタは、ワーグナーのトリスタンとイゾルテから本格的に始まった調性崩壊の帰着点としての十二音に至る以前の、調性の枠組みをわずかに残しながらも、そこから大きく逸脱しながらも、伝統的な構成方法を極限までに拡大した傑作である。
提示部 テーマの主要動機は最初の三小節で音楽を構成する全ての要素が提示される。 この4つの動機だけを使って、この作品は出来ている。ベートーヴェンが交響曲第5番「運命」で行ったことを、ベルク流にやったと言っても良いだろう。 しかし、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」の冒頭のトリスタン和音が約50年経って、半音階的な使用がここまで極端に進んでしまったのだ。トリスタンの冒頭部分を左にあげておこう。 ちなみにこのワーグナーの何が問題だったのかというと、2小節目の和音である。オーボエのメロディーがGisで倚音(和声外音)。それを支えるのがドッペル・ドミナントの第2転回型で、第5音を下方変異させてある。こうしたことから型どおりドミナント上に解決するのだが、和声の機能が弱められ、方向性が希薄となっている。これがトリスタン和音である。 ベルクに戻ろう。第一主題の提示の後、動機の一部を使って推移が形成される。この推移で動機(M2)と動機(M3)が変形して使われているが、半音階的な特徴はそのままにされている。 そして再び第1主題が回帰してきて、主題の確保が行われる。最初と異なる部分はオクターブ低くなり、響きの重心が低くなっていることに加え、動機の密度が細かくなっていることがわかる。 展開部 展開部は、第1主題、第2主題がいくつかの音程的特徴、リズム的特徴を残した小さな動機に分解され、それが音位を変えて反復され、それぞれが縮小したり、拡大したりして発展していく。 全体はほぼ3つから4つの部分に分けられるが、ここでは4つの部分に分けて説明をする。 第一群 第一主題の動機(M1)のリズム的特徴と動機(M2)の音程的特徴をつなぎ合わせて作られた新しいメロディーをゼクエンツ(同型反復)することによって始まる。伴奏には動機(M2)を縮小してそれを反行させた分散和音が当てられている。それが半音階で下っていく動機(M3)になっている。全く無駄のない書法を示していると言えよう。 第二群 続く第二群では、低音に主題の繰り返しが出て来る。そして上声部に半音階の動機(M3)が出て来ることで、第一群と対照が形成されている。 次第に盛り上がっていく中で、新しい16分音符の動機が動機(M1)、動機(M2)の変奏として出て来るが、これがこの部分の後半で大いに盛り上がって行く中で、第三群に繋がる。 第三群 この部分は、第二群に繋がる部分で、第二群の後半と考えても良いと思う。ここではffffというディナーミクが指定され、極めて情緒的な盛り上がりも魅せているが、半音階での動機(M3)が印象的である。 ここから次第にディミヌエンドし、再現部につながる第四部に持って行くのだが、四度構成の和音が執拗に繰り返されている。 第四群 展開部の最後の部分では、第二主題の動機を中心として展開されて、再現部への回帰する部分を作っている。六連符の動機と半音階の縮小された発展も行われている。 あとは型どおりの再現というわけではないので、また折りを見て書く予定。
by Schweizer_Musik
| 2005-10-27 16:19
| 授業のための覚え書き
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