松崎しげるのタンホイザーの録音に思う
松崎しげるがチェコ・フィルハーモニー管弦楽団と共演してCDを録音したそうだ。そのアルバムの中には、彼のヒット曲である「愛のメモリー」などに混ざってなんと「タンホイザー」とクレジットされている。まさかとは思ったが、どうもタンホイザーの中の有名部分を歌っているようだ。
クラシックのオケと共演するポピュラー歌手は多い。クラシック音楽をポピュラー・シンガーが歌う例も数多くあり、古くはバーブラ・ストライザンドがフォーレやドビュッシーを歌ったものなどが思い出されるし、最近では平原綾香がホルストの「惑星」の中からジュピターに歌詞をつけてポピュラー・ソングにしてしまったものもある。(嫌味で言っているのではない。私は彼女の美しい歌に心からの讃辞を捧げたいと思っている)
しかし、そうした試みの成功もあるが、私は本田美奈子の最近のアルバムの質の高さはやはり驚異的だと思う。純粋なクラシック音楽として評価するのは明らかにアン・フェアだ。彼女はクラシックの歌手ではないからだ。
しかし、本田美奈子は日本を代表するミュージカル歌手として、あるいは女優として、あるいはいくつものヒット曲を持つポピュラー歌手として間違いなく多くの支持を得ている。考えれば、そのトレーニング、精進、そして歌詞の制作からアレンジと多くの人を動かしてのプロジェクトの要としての彼女を私は高く評価したいと思う。
今年のはじめだったか、白血病で現在休業中とのことだが、臍帯血移植を行い順調に回復していると聞き一安心である。彼女はクラシックの音楽に歌詞をつけて(岩谷時子さんをはじめ、日本を代表する人達がそれを担っている)歌っているのだが、伸びやかな歌は、とてもよくトレーニングされていて、決して簡単な仕事ではなかったはずである。
こんなことを思いながら、松崎しげるのタンホイザーの話を聞いた。クラシックに世界にポピュラー畑の人が入ってくるのは歓迎である。新しい血が加わらなければ、音楽は死に絶えるからである。新しいものを異質なものとして、排除するだけでは未来はずいぶん堅苦しいものとなろう。
ベートーヴェンにもブラームスにもクラシック音楽とポピュラー音楽の違いは多分私たちが考えている以上に小さかったと思われる。
ブラームスが当時のポピュラー音楽の大御所であったヨハン・シュトラウスを愛していたことは有名である。かつてカラヤンがレハールの「メリー・ウィドー」を録音したと言って議論の的となったことは、古い音楽ファンならばご存知のはずだ。「メリー・ウィドー」なんてポピュラー音楽を、カラヤンがクラシックの殿堂であるグラモフォンに録音したと抗議があったのだそうだ。今では考えられない話ではあるが。
しかし、ジャズ・ピアニストとしてもヒット作をいくつもリリースし、ミュージカルの音楽のアレンジを担当した音楽家がロンドン交響楽団の音楽監督になったではないか!アンドレ・プレヴィンである。
そう考えれば、キース・ジャレットやチック・コリアもクラシックのCDをいくつも出している。キースに至ってはショスタコーヴィチの24の前奏曲とフーガなんていうとんでもない難曲まで出しているのだから、もう何が本職なんて言えないところまで来ている。
松崎しげる氏が本格的にクラシックの音楽をやるなんてことになったら面白いだろうなと思う。そうした新しい先入観に汚れていない血が、見方、聴き方が必要なのだろう。結局、聞いて面白いか、あるいは感動があるかどうかが決め手なのだから。
by Schweizer_Musik | 2005-11-01 21:35 | 音楽時事
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