マルタン、ピアノ協奏曲全集 ベンダ(pf) バドゥラ=スコダ(pf) *****(特薦)
実に興味深い一枚。ほとんど日本では紹介されないまま、消え去ろうとしているのは残念だ。
セバスティアン・ベンダとその息子クリスティアン・ベンダはチェコの18世紀の大作曲家の家系に属するそうだ。セバスティアン・ベンダはスイスに長く住み、マルタンやオネゲルといったスイスの作曲家と親交を結び、マルタンのピアノ曲全集や作曲者の指揮で録音したピアノと管弦楽のためのバラードなどが特に印象に残っている。
そのセバスティアンが録音したバラード、ピアノ協奏曲第1番に、これまた作曲者との親しい間柄であったというバドゥラ=スコダが、確か30年ほど前に作曲者の指揮で録音したピアノ協奏曲第2番(これはスコダが委嘱したものでもちろん初演もスコダ)を再び録音したことは、大いに話題になって良いはずだ。
セバスティアン・ベンダとスコダが共演した「二台のピアノと小管弦楽のための恐怖の舞曲」は私ははじめて聞くが、これはディヌ・リパッティとその妻、マドレーヌ・リパッティによって初演されたものだという。マルタンが第二次世界大戦中に書いたアルノルト・シェーンベルクなどの12音音楽の手法を用いて書かれた二台のピアノのための作品に管弦楽を加えたものであるようだ。
指揮するのは、セバスティアン・ベンダの息子クリスティアン・ベンダ。ナクソスにカッセラの作品集があるが、その時と同じスイス・イタリア語放送管弦楽団を指揮している。
演奏はどれも誠に素晴らしいものだ。バラードはかつての録音に比べると洗練の度合いが更に増しているようだ。オケがまた上手い。私は津田理子さんが夫のシュヴァイツェル氏と録音した幻想的な演奏を好んで聞いているが(Jecklin/JS-285-2)、ベンダの演奏はそれよりも速めのテンポで骨太な印象が強い。世評の高いロデリック・エルムスのピアノ、バーメルト指揮ロンドン・フィルの演奏(CHANDOS/Chan 9380)もこれに近いが、よりメリハリが効いていて初めて聞くにはこれが良いのかも知れない。オケもさすがに優秀だ。ベンダの作曲者との録音は私はDVDで持っているが、この高額な全集以外に聞くのは難しいかも知れない。とすれば、この録音の価値は高いと言わざるを得ない。
第1番は、CDでは私はこれしか持っていないが、ベンダの演奏は全く力強いもので、この一枚で十分ではないかとも思ってしまう。1933年。まだ初期のスタイルを多少残したマルタンのこの作品は、実にファンタジック。私は初めて聞いたのも確かこのベンダではなかったかと思うが、オケもこの録音でのスイス・イタリア語放送管弦楽団は全く素晴らしい。冒頭の木管の絡み合いも、なかなか聞かせる。弦がやや薄く感じさせられるのは仕方ないが、決して音が痩せているわけではない。
初演は確かアンセルメの指揮でヴァルター・ギーゼキングがピアノを弾いたものだったと記憶しているが、これが録音されて残っていないものだろうか?一度聞いてみたいものだと思い続けているが、作曲者とも親交深いベンダの録音が残されたことは、誠に素晴らしいことだ。この曲がもっと演奏されないものだろうか。フランスの印象派から抜け出してきた新古典主義といった感じで、私は大変好きな曲でもある。ラヴェルのジャズの影響深い2曲の協奏曲の印象が強すぎて、この時代のピアノ協奏曲はどうも不利なようだが、隠れた名曲としてもう少しリバイバルしても良いのではないだろうか。
ティンパニーのソロで始まる第2番は、スコダの衰えをちょっと感じさせられてしまうのは悲しい。クリスティアンも合わせにくそうだ。彼は以前にもちょっと聞いた時にかなりテクニックに衰えが来ているという印象を持ったが、この録音でもその印象はぬぐえなかった。とは言え、委嘱した本人の録音である。作曲者との録音とほぼ同じ内容で演奏している。ただ、これは旧盤の方(Jeclin/JD 632-2)により高い価値があると言えよう。
二台のピアノと小管弦楽のための恐怖の舞曲 (1968-69)は、パウル・バドゥラ=スコダとセバスティアン・ベンダが共演しての録音である。12音音楽であるそうだが、私はジャズの要素を取り入れたもので12音の部分はかなり自由に扱っているように思われた。一般的な12音の音楽とずいぶん違うからだ。解説の12音というのは本当だろうか?それよりもジャズを大胆に取り入れた新古典主義の見事な小品(と言っても13分ほどもかかるが)と言うべきだろう。大変面白い作品だと思った。マルタンの曲の中でもかなり感覚的な面白さが追求されたものという印象を持った。
この意義深い録音は、スコダの第2番に多少問題はあるとは言え、歴史的な意義を持っている。その他は十分に推薦に値するし、歴史的意義を加えて特薦にする。
近代音楽に関心のある方は、ぜひ一聴をお薦めしたい。

ASV/CD DCA 1082
by Schweizer_Musik | 2005-11-08 08:41 | CD試聴記
<< 世界の車窓から… 本田美奈子 アヴェ・マリア ... >>