マルトゥッチの交響曲第1番と第2番のCDを聞く。演奏はキース・バークルス指揮のマレーシア・フィルハーモニー管弦楽団。えっ?と思う人も多いかも知れないが、これがスウェーデンのレーベルBISから出ているのだから、驚かされる。
しかし、良い演奏である。東洋人のクラシック音楽は日本人が一番と言う思いこみはのっけから吹っ飛ばされる。1998年の創立でまた歴史はないが、世界中で3000人の応募者からオーディションして集められたというオーケストラは、まさしく本格的なもので、立派なものである。 ダヴァロスの名演でこれらの作品は知っているが、全く遜色を感じさせないのは驚きだ。マルトゥッチの二つの力作を緊張感を保ちながら、最後まで聞かせるその力量は計り知れないものがある。 何気なくCDショップにあったら、これに手が出るだろうか?東南アジアのオーケストラなんてと思い上がった気持ちが私にも無かったとは言えず、ナクソスのミュージック・ライブラリーで聞いて、今、大変半生しているところだ。 オーケストラはもう地域的な特徴な地域によるハンディは無くなりつつあるのではないだろうか?何が何でもウィーン・フィルやベルリン・フィルでなくてはならないなんて幼稚な信心をしている人はともかくとして、西洋音楽はもうインターナショナルなものになりつつあると言って良いのだろう。 この演奏を何も言わないで誰かに聞かせて、東南アジアのオケの演奏であることがわかる人がいるだろうか?ロンドン交響楽団の新しい新譜でこんなのが出たよと言うと、きっと多くの人が信じることだろう。 前置きはこのくらいにして、第1番の演奏からレポートをしよう。 まず、第1楽章。劇的な主題を緊張感に満ちたオケのサウンドで見事に再現してみせる。スケール感も十分で、キース・バークルスという指揮者はオランダ人なのだそうだが、素晴らしい力量である。第2主題の夢見心地の歌わせ方も理想的だ。展開での音楽への反応の良さというか、適切なテンポと表情による完璧なまでの再現はまさに舌を巻くしかない。 第2楽章は、結構難しい音楽だと思う。抒情的な緩徐楽章なのだが、リズミックな側面もあり、意外とまとめるのは難しい楽章だと思うのだが、キース・バークルスとマレーシア・フィルの面々は全く問題がなく、空中分解しそうな音楽をうるおいに満ちた美しい音楽に仕上げている。時折はさまれるチェロのソロもとても美しく、オーケストラが大変立派な技量と音楽性を身につけていることをうかがわせる。 第3楽章のチャーミングな音楽は全く素晴らしい。これに魅了されない人はいないのでは?木管の響きも美しいし、金管も荒々しさを感じさせない洗練された響きで全く美しい。弾むようなリズムに美しく絡むメロディーは震いつきたくなるほど魅力的だが、それはまだ若い華奢な肢体であろう。オーケストラが成熟した大人の音楽を演奏するのにはもう少し時間が必要なのかもと思ったのも事実である。 終楽章のダイナミックな表現は、さすがに若いオーケストラのエネルギーが爆発したものと評せようが、集中力の途切れるところは皆無で、響きがよく磨き上げられていて、聞けば聞くほど味が出て来る演奏であるとも言える。抒情的に歌い上げるところでのカンタービレも、品位を失うことなく、奏者の一人一人がよく集中していることがよくわかる。 クライマックスでの充実したトゥッティの響きもまた、このオーケストラがいかによく練れた団体であるか、実感させるものである。 続いて第2番。 マルトゥッチの更に成熟したこの傑作を、マレーシア・フィルは全く完璧に演奏している。これは驚くべきことである。最弱音からはじまり、大きく音楽がふくらみ、豊かな情感を湛える冒頭から、聞く者の心をそらすようなことは全くない。アンサンブルは精妙を極め、複雑なスコアをそれと感じさせることなく演奏していくのだ。 第1楽章。第1主題のむせかえるようなロマンの香りがよく再現されている。第2主題のリリシズムに溢れた表現もまさに完璧!彼らの表現力の幅広さも、また指揮者の能力の高さも印象づける結果となっている。 展開部の息をもつかせぬ緊張感と抒情的な伸びやかさの交替は、彼らの集中力によって見事に表現されている。ポリフォニックに入り組んだ音楽を余裕すら感じさせるアンサンブルで見事に演奏している!これでなくては!!素晴らしい!! 第2楽章。スケルツァンドな表現が愉しい音楽。オケのアンサンブル力が浮き彫りにされてしまうような楽章。ここでも唖然とするほどのパフォーマンスをマレーシア・フィルの面々はさらりとしてのける。全く彼らの底知れない能力には驚き入るばかりだ。 第3楽章は指揮者キース・バークルスの息の長いフレージングに、まさにイタリアのワーグナーとも言うべきこの幻想的で思索的な楽章があますところなく表現されている。この指揮者はただ者ではなさそうだ。遅すぎずという指示のとおり、アダージョながら大変流れがよろしい。その上バランスの良いオケの響きを生かして、混濁と無縁のすっきりとした表現で、最後まで集中力を切らせない。凄い手腕であり、これに応えたオケもまた賞賛に値する。 終楽章は対位法などにこだわっていたマルトゥッチの面目躍如たる音楽で、展開部におけるフガートなどは、機能的にも素晴らしいオケならではの胸のすくような演奏によって、最高の演奏となっている。 全く、問題点をこのCDから聞くことは不可能なほどである。東南アジアだから後進国という発想は大きな過ちであることを知るべきだ。私も大いに反省し、このオケの演奏をこれから注目していきたいと思う。と同時に、日本のオーケストラ活動も負けないようにがんばってもらいたいものだ。つくづくそう思った次第である。そういえば韓国のKBS交響楽団やシンガポールお香港のオケなど、この十年ほどで随分うまくなっているように思える。 地域差がなくなり、ボーダーレスの時代なのだ。だから島国根性を出していては駄目なのだ。 皆さんも一度、お聞きになってみられては?素晴らしい演奏ですよ!! ところで、このオーケストラの現在の首席指揮者になるのは、スイス人指揮者の巨匠であるマティアス・バーメルトなのだそうだ。凄いことではないか?先頃、NHK交響楽団でサヴァリッシュの代役で登場して、素晴らしい演奏を聞かせたあの指揮者である。 マレーシア・フィルのコンバス奏者が日本人で、ブログをやっておられます。一度みてみられてはいかがでしょう。神奈川フィルとともに応援したくなりました!! BIS-CD-1255_MARTUCCI: Symphonies Nos.1,Op.75 and 2, Op. 81
by Schweizer_Musik
| 2006-01-08 23:15
| CD試聴記
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