この楽章のテンポはAndante sostenutoだが、そのテンポの解釈は指揮者によって大きく異なる。例えば、ワルターはニューヨーク・フィルとかなり速めのテンポでこの楽章を演奏しているが、彼に言わせればブラームスはAndanteと書いてあるということなのだろう。
しかし、フルトヴェングラーはかなり遅めのテンポでこの楽章を演奏する。彼が重視しているのは明らかにsostenutoだ。 シュナイトもおそらくこのsostenuto派だと思う。解釈としてはフルトヴェングラーに最も近いと考える。 ミュンシュなどの演奏がよくフルトヴェングラーと似ているなどと書かれるが、私は確かに似ている点もあるとは考えるが、みっと風通しが良い演奏に思える。それほどフルトヴェングラーの演奏は密度が濃く、重い。重いのはテンポだけではない。フレーズの歌い始めのタメが深いのだ。このフルトヴェングラーに最も似ているのがシュナイトとバレンボイムである。シュナイトもこれでもかと重心を下げ、奈落の底をのぞき込むような深いタメがフレーズを重みをもって歌いあげるのだ。バレンボイムはずっとスマートだ。シュナイトはライブらしいノリがこれに加わる。フルトヴェングラーに似ていると言われ、名演の誉れ高いミュンシュがパリ管を振った演奏は、シュナイトの演奏を聞いてから聞くと、音楽を支えるバスが実に軽く聞こえ、響きの風通しが良いことがわかる。ああフランスのオケなのだと思う瞬間である。 この楽章の速めのテンポの場合は4分半くらい、遅めのテンポの場合は5分くらい経ったところで木管が主題を、弦が八分音符中心の美しい対旋律が高音域で伸びやかに歌い上げるところがある。(楽譜) ここで弦が表情豊かにやりすぎると、主題が背景に消えてしまう。ブラームスはフルートを上に出して、主題を浮かび上がらせるようにしているが、当時としては限界のcisが出て来るのを避けて、途中からオクターブ下げている。プロコフィエフならそのままcisを高いままやっていることだろう。それをやったのがエドゥアルト・ヴァン・ベイヌムで、彼の3種類の演奏は全てそうやってフルートの高音(どうもピッコロをかぶせているようにも私には聞こえるのだが…)を加えている。もちろんブラームスのあずかり知らぬ変更ではあるが、実はこれは彼の前任者メンゲルベルクもやっているので、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の伝統?だったのかも知れない。ハイティンクのロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団との最初の録音を今回確かめられず残念だったが、ロンドン交響楽団との最新のライブでは変更していないので、彼は楽譜通りで十分と考えているのかも知れない。今日ではこうした変更はあまり聞かないが、どうだろう? カラヤンやジョージ・セルは変更なしで、ここを完璧なバランスで演奏している。彼らには、ここが急所だとわかっていたのだ。バルビローリやコンドラシンなど、ここで失敗している例が結構多いのだが。 さて、シュナイト盤もここで失敗をしているのは惜しいことだ。分厚い低音と弦の心をかきむしるようなオブリガートにマスクされて、主題の再現が背景の彼方に去ってしまった。ライブでなく、ちゃんとした録音だったなら(このCDの録音スタッフは明らかにポイントをバスに偏りすぎで、1楽章の冒頭から私はちょっと不満を感じているのだが、ここはそうした問題が最も大きく出てしまった) しかし、このシュナイトの解釈はブラームスに対する無知・無理解とは違うある確信を感じさせるものでもある。録音とは難しいものだ。 続くコンマスの石田氏のソロは実に美しい。とてもきれいなピッチでビブラートを少なめに演奏している。個人的には小澤征爾指揮ボストン交響楽団のシルヴァースタインのソロに比肩できる出来と言えよう。(ヴァイオリンの音は石田氏の方がずっと線が太いが) このソロは個人的にはボスコフスキーの耽美的なソロ(カラヤンのデッカ盤)をとるか、ベームがベルリン・フィルを指揮したシュヴァルベのキリリとした表現をとるか二つに分かれると思う。石田氏はシュヴァルベに近いものを感じるが、これは正解のない話なので、まぁこんなところでおいておくことにしよう。 テンポが速すぎて、とても聞いていられないヘンテコな演奏のコンドラシン盤であるが、第2楽章のソロがおそらくはクレバース。とんでもなく美しいソロなのに、テンポが走りすぎて音楽どころではないのが残念だ。コンドラシンはこの日はよほど急いで帰りたかったに違いない。 まだまだこの項つづく・・・。
by Schweizer_Musik
| 2006-03-17 20:23
| CD試聴記
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