アンセルメ&メニューインによるベルク作品集 ****(推薦)
メニューインによるベルクのヴァイオリン協奏曲を聞く。共演はエルネスト・アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団。
近代音楽は得意だったアンセルメだから、別に驚くに当たらないが、彼はシェーンベルクたち新ウィーン楽派のドデカフォニーが大嫌いだった。その彼が、詳しくは知らないがこのベルクのヴァイオリン協奏曲だけはレパートリーにしていて、メニューインやフェラスと演奏している。正規の録音は無かったのではないだろうか?
ヴァイオリン協奏曲でのメニューインはブーレーズと共演したEMI盤のような不安定さはない。第2楽章では、ダブルストップで延々とやる部分が何度か出て来て、ヴァイオリンにとっては大変な難曲なのだそうだが(作曲をやっている人間には実感があまり・・・)メニューインは実に安定した演奏を披露している。
メニューインとアンセルメで検索をかけたら2チャンネルに引っかかって、どこにその書き込みがあるのかと読んでいくうちに、アンセルメは下手な二流指揮者で、デッカの録音は古い解像度の悪いステレオ装置向きで、オケは情けないほど下手だというのが主流だと知った。
二流、三流の評論家の受け売りとしか思えない程度の低い書き込みの連続に「ああ、読むんじゃなかった」と後悔したが、ロクに聞きもしないで(内容から聞いていないことがバレバレ)書く無神経さに、読んでいるこちらがうんざりしてしまった。
こうした音楽とは無縁の掲示板の「書き込み」はやはり無視するに限る。ここでのアンセルメの指揮するスイス・ロマンド管弦楽団は掛け値なしに素晴らしい!!
アンセルメの最大の美質は独特のリズム感にあると私は思っている。それを支えるバスはやや大きめ。ワルターほどではないにしても、バスを大きめにしてメロディーを伸びやかに歌わせる所がある。これは、古い世代の指揮者に共通していると思いきや、意外にもこのスタイルをとる指揮者は少なく、メンゲルベルクがその範疇に入りそうだ。
アンセルメもそうしたスタイルで、このスタイルから近代音楽のドビュッシーやラヴェル、オネゲルやストラヴィンスキーが奏でられてきたということが面白い。とは言え、これも私たちの時代の見方であって、当のドビュッシーやストラヴィンスキーが生きていた時代はメンゲルベルクやワルターのようなスタイルの全盛の時代であったのだから、こうした演奏がアナクロでも何でもないのだ。「古い」などと片づけては見当はずれもいいところだ。
さて、アンセルメの指揮は第2楽章で絶頂に達する。リズミックな処理が生き生きとして、何とも気持ちが良い。冒頭がおどろおどろしいだけの演奏がほとんどの中で、この録音は細部までよく神経が行き届き、よく弾む。グランカッサを思い切ってならしている点も私は賛成だ。
このアンセルメの好演に支えられて、メニューインが難技巧の連続を易々と弾きこなしていく様は、彼の神童時代を彷彿とさせるものがある。しかし、あのような天真爛漫な演奏はここにはない。十分な経験を積んだ大人の深みというべき味わいが聞こえてくる。
かつて、スークの演奏で感動し、最近ではツェートマイヤーの演奏で感動した。クレメルも良かったがあの張りつめた厳しさはちょっと苦手で、パールマンのようにのびのびと弾かれた方がずっとこの曲の悲しさと艶やかさが表裏一体で融け合ったような性格が無理なく味わえるように思う。
だからこのメニューインの陰影豊かなヴァイオリンとアンセルメのダイナミックな共演による演奏は、この作品の演奏史の中でも特異な存在を主張していると言えよう。

ヴォツェックからの三つの断片は、シュザンヌ・ダンコがソロをとり、他の出演者はいない。従ってオケのみの演奏に時々マリーが現れるという寸法で、ヴォツェックを聞くのなら、アバドの全曲盤などをお薦めしたいが、このアンセルメの古い録音もなかなか良い。まず第1幕 第2場の終わりから第3場 の「チンプン、チンプン…!聞こえる坊や? 」と歌う部分である。1953年の録音ということで、やや音の古さは否めないものの、放送局の正規録音からの復刻だそうで、まずは音楽を楽しむ分には問題はなさそうである。
ベルクの音楽の繊細さはとてもよく表現できているのではないだろうか。ソロが多く出てきて、線の細さは感じるが、アンサンブルになった時の弾力のあるリズムは大変説得力がある。
続いて第3幕第1場から「しかして、その口に虚偽なかりき… "Und ist kein Betrug..."」と歌う部分が入っているが、シュザンヌ・ダンコってこんなに上手い歌手だったとは知らなかった。ダイナミックでありながら色気もあり、破滅的なはかなさもある。ああマリーってこんな役だったんだ・・・(当たり前!なんだけれど)。
3曲目は第3幕の第4場から第5場にかけてで「ぐるぐる、ぐるぐる、バラの冠、踊れ!」と最後に歌って終わる。交響詩を聞くような充実感もあり、歌劇も知っていると大変面白い聞き物である。ただ、歌劇を知らずに聞いてどれだけ楽しめるかはわからない。
アンセルメが歌劇?そういえばラヴェルやドビュッシーの歌劇を録音してたっけという人も多いかも知れないが、スイス・ロマンド管弦楽団はジュネーヴ大劇場のピットにも入るので、音楽監督はオペラの指揮もする。従ってアンセルメは1950年代、1960年代の歌劇のライブ録音は意外に多く残されていて、私もいくつか持っているが、「ボリス・ゴドゥノフ」なんていうのもある。
だから、彼はこうした作品を舞台で何度かやっているのだろう。実に手慣れたもので安心感がある。しかし、マリーだけしか出てこないのにはちょっと違和感を禁じ得ない。

管弦楽のための3つの小品はいい演奏であるが、この曲にはカラヤン指揮ベルリン・フィルというとんでもない名演が残されている。録音もそちらがよく、全くこれでは勝負にならないと思いながら聞き始めたが、さすがに解像度で問題があるし、金物が異常に近く聞こえて興ざめだったりするが、紛れもないアンセルメのスタイルによる演奏で、私は結構楽しめた。もちろん、この曲で一枚だけ選べと言われたら、躊躇なくカラヤン盤を選ぶが・・・。

このCDはヤフーのオークションで落札して昨日私の手元に届いたものだ。5〜6年前にレコード店で見かけて買おうと思いながらもその時はファリャの「アトランティス」が目に入り、お金が足りなくなってまた今度と思っていたらなくなってしまい、そのままになっていたものだ。やっと聞いて、これはやはりヴァイオリン協奏曲を聞くためのCDだと思った。シュザンヌ・ダンコの名唱も収穫であった。****(推薦)としておこう。

CASCAVELLE/VEL 2003
by Schweizer_Musik | 2006-04-07 07:56 | CD試聴記
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