「Jupiter」がヒットして以来、再びポピュラー音楽からクラシック音楽への熱い視線を感じる今日この頃である(笑)。
もちろん「Jupiter」が平原綾香の作曲でなく、グスターヴ・ホルストの作曲であることは先刻ご承知のことと思う。このホルストの人気曲は、作曲者が一切の改変を認めない「遺言」を残していたこともあって、色々と裁判沙汰になったこともある。冨田勳がシンセサイザー編曲をした時(1977年)も、その発売の中止を求めた遺族と争ったことがあったように聞いたが、どうだったのだろう。結果としてアメリカと日本だけでしか、あの「惑星」は発売許可がおりなかったようだ。 ホルストはこの「惑星」に特別の思い入れを持っていたようで、オーケストレーションの改変などほぼ認めていないし、抜粋も認めていない。従って「木星」だけ抜き出して演奏するというのも認めていなかった。(あの平原の「Jupiter」は作曲者の意図からすると違反になる?ようだ…笑) オーケストレーションではこの曲でホルストはバス・オーボエを使うなど、かなりの工夫をしたようである。(ちなみにバス・オーボエを使用した曲なんてこの曲でしか私は知らない…。何でバスーンやイングリッシュ・ホルンじゃ駄目だったのか、私にはよくわからんのです。おお恥ずかし!)4管編成の大規模なオーケストラとコーラスを使ったアレンジは、ホルスト入魂のものだったようだ。 昔、ストレンジャー・イン・パラダイスというヒット曲があった。私は某レコード店で「世界のワルツ王=アンドレ・リュウ」のCD(一体どういう人なんだろう…買わなかったけれど)にこの名称の曲が入っていたが、その横に(歌劇『イゴール公』より ボロディン「ダッタン人の踊り/キスメット」)とあった。あのコーラスで歌われる美しいメロディーである。コード進行がポップスでよく使われる㈼−㈸(ツー・ファイヴ)で出来ていることもあって、使いやすかったのだろう。ボロディンのこの曲がストレンジャー・イン・パラダイスと呼ばれるようになったのは、ロバート・ライトとジョージ・フォレストのコンビで作られたミュージカル「キズメット」の中で歌われて、それが評判となって有名になったことによる。私はフォー・エイセスのコーラスで親しんだものだが、いろんなポピュラー歌手が歌っているが、最近、JR東海の奈良を紹介するCMで歌われているので、聞かれた方も多いだろう。 こうして連想していくと、グレン・ミラーの「レッツ・ダンス」に思い至る。アメリカのNBC放送の「Let's Dance」という番組のテーマ音楽で、その番組で演奏していたグレン・ミラーの音楽がヒットしたというわけだ。ダンス・ミュージックの定番としてご存じの方の多いだろう。原曲はもちろんウェーバーの「舞踏へのお誘い」である。 更に連想は続く。ディズニーのようにアニメ全体にチャイコフスキーなどの音楽を埋め込んだものは、ウォルト・ディズニーがクラシック音楽を好んでいたためであると言われているが、いずれにせよ彼の啓蒙でクラシック音楽ファンになった人も多いのだから、ありがたい話だ。特に「眠りの森の美女」(1959年)は有名だ。 さて、そうしたクラシック音楽をそのまま使ったに等しい場合は無視するとして、ジャズになったクラシック音楽は多いが、なんと言っても最も二次利用の多い例はホアキン・ロドリーゴのアランフェス協奏曲だろう。あの2楽章だけで、彼はかなり稼いだはず…(すみません、つい…羨ましくて…)。ジャズからポップスまで、さらには「必殺仕置人」のテーマにまで使われたのだから凄まじい。 盲目の作曲家でもある彼は、他にも色々と作品を(調べてみると結構たくさんの曲を残していることに驚く)作っているのだが、このアランフェスだけが特別のようだ。 多くのジャズメンのインスピレーションを刺激したこの曲の最高のポピュラー・アレンジは、名匠ギル・エバンスが編曲しマイルス・デイヴィスが演奏した「スケッチ・オブ・スペイン」というアルバムの冒頭を飾ったものであろう。16分あまりにジャズ化されたそれはまさに圧巻だ。 ジャズの世界とクラシック音楽はガーシュウィンなどは特別で、おもにクラシックからのアプローチが中心だった。だが、しかしベニー・グッドマンなどという変わり種(当時はジャズも演奏するクラシックのクラリネット奏者なんてごくわずかしかいなかったし、その逆もそうだった)が出てきて、少しずつ距離が縮んでいったというべきだろう。というより、フリー・ジャズがその垣根を前衛音楽と共同で破っていったというべきか? さて、最後にプロコフィエフの3つのオレンジへの恋の行進曲が、ベニー・ゴルソン(この名前をジャズ好きで知らない人はいないだろう!)がアレンジしている。題して「ブルース・マーチ」。 アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの代表曲の一つが、もともとがプロコフィエフだったとは…。著作権はどうしたのだろうと思うが、実は当時のロシアは著作権に関わる条約に加盟していなかったので、ロシアの作曲家が西側(この言葉も懐かしくなって来ましたね)から作品を出版していない限り、その音楽は実質的に著作権フリーだったのだ。(今は違うけれど) しかし、あまりに見事にブルース化されているために、プロコフィエフだとは言われないと気がつかないだろう。 この稿、更に続く(かも知れない)。
by Schweizer_Musik
| 2006-06-12 08:56
| 原稿書きの合間に
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