今日の一曲 (8)
今日の一曲 (8)
パガニーニのチェントーネ・ソナタ集はいかがだろう。
19才でイタリアのルッカの宮廷オーケストラに加わった彼が、ギターを上手に弾く(らしい…聞いたことがないものですから…)貴婦人と同棲していた頃に書いた作品群の一つだそうだ。だからヴァイオリンとギターのために書かれていて、ギターはひたすら伴奏に徹していて、ヴァイオリンはひたすらメロディーを歌うというもので、言えば「なんだ、単純な音楽じゃないか」と言われてしまいそうだが、意外とそう簡単なものでないのは言うまでもない。
第1番がグスタフ・マーラーの第5番の交響曲の開始ととても似ているので笑ってしまいそうだが、そうしたネタ物ではなく、純粋にこの伸びやかなメロディーの数々がとてもとても気持ちの良いもので、初めて聞いた時から夢中にさせられてしまったものだ。
しかし、パガニーニの作品はどれくらい残っているのだろう?まともな弟子も残さなかったし、自作品を一曲も生前に出版せず、死後、その作品の多くは散逸してしまったのは返す返すも残念なことだが、その原因はパガニーニにあったのは言うまでもない。
ロッシーニの弦楽ソナタもそうだが、この若書きのパガニーニの作品のカンタービレは、イタリアのベルカント・オペラをヴァイオリンで聞いているような面白さがある。但し、大量にあるこのヴァイオリンとギターのためのソナタ(彼は48曲のソナタとおそらく10曲足らずが残っているだけだが小品を書いた)はスタイルが同じなので、ヴィヴァルディの協奏曲を何曲も一気に聞かされるような単調さも味わうこととなる。
あまりまとめられるとつらいと思うが、一曲だけちょっと聞くにはとても良い気分転換になるし、メロディーの力を正直信じたくなる。
「かつこいい和音」を教えろとよく弟子に言われて閉口するのだが、何がかっこいいのかはともかく、ちょっとした副属七の連続、ドミナント・モーションを応用した進行をピアノでペラペラと弾いて聞かせると、それ教えてくれとすぐに言ってくる。まぁ経験が少ないからそう思う気持ちもわからんではないが、何をバカバカしいと私は滅多に取り合わず、クリシェ(使い古したものとかいう意味があるそうだ)で「踊る人形」やいくつかのシャンソンを聴かせて、こんな良いメロディーがかけるかい?大体かっこいい和音に欺されて凡庸なメロディーを書くのがオチだよと話して聞かせることにしている。
そんな時にこのパガニーニはとても良い教材となる。何しろ基本的な三和音でしか出来ていないのだ。1805年頃と言っても、パガニーニの和声力はそう大したものでなかったことはよくわかる。でもこのメロディー創作の力は秀逸である。で、この音楽の単純さにも関わらず、これらのヴァイオリンとギターの作品に私が惹かれるのは、このメロディー故なのだ。
パガニーニを取り上げると「素人くさい音楽が好きなんだな」と言われそうだが、一度ご賞味あれ。素材の良さだけで聞かせる(漁師料理のような)音楽も良いものだ。こればかりではちょっと疲れてしまいそうだが…。
ナクソスからかなりまとまって出ているので、そちらで聞かれるとよい。
by Schweizer_Musik | 2006-08-25 06:24 | 今日の一曲
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