「私は霊感とか才能を否定するつもりはないが、音楽というものは聴かれるために書かれるべきだと思う」と述べたモートン・グールドは、続けて「また、作曲家は短い娯楽作品から交響曲に至るまでの多様な作品を書く能力をもたねばならない」と述べている。
以前、ファビオ・ルイジの指揮するスイス・ロマンド管弦楽団の演奏で、このモートン・グールドの「ラテン・アメリカン・シンフォネット」を聞いた時、このグールドの姿勢を最もよく表した作品がこの曲ではないかと、どこかの解説の受け売りのようなことを思っていた。 映画館のピアニストとして出発した彼は、徹底した現場でのたたき上げの職人だった。だから聞き手を間近にした現場で腕を磨いたことも彼の親しみやすい作風を作る基盤となったのではないだろうか。 シリアスな作品も書いているが、やはりこの「ラテン・アメリカン・シンフォネット」や今は亡き名ピアニスト、チェルカスキーの十八番だった「ブギブギ変奏曲」などの娯楽的な作品の数々、更に自ら組織したオーケストラを指揮しての、映画音楽やジャズ、ポップス音楽からビゼーの「カルメン」などポピュラー、クラシックの分け隔てなくアレンジし、録音した膨大な音盤によって高く評価されている音楽家である。 一方で、アイヴスの交響曲第1番をシカゴ交響楽団と録音してグラミー賞を受賞しているそうで、指揮者としての腕前も確かなものであったし、彼が指揮したラヴェルの「ボレロ」なんてなかなかの名演だった。アレンジものでない彼の録音の中ではエイトル・ヴィラ=ロボスの「カイビラの小さな汽車」の演奏が好きで、よく聞く。情景が目の前に浮かぶような演奏って、あるようでないものだ。ヴィラ=ロボスのブラジル風バッハの全曲とはいわないが、せめて第2番と第5番ぐらいは録音していてほしかった。(いや、私が知らないだけで、ちゃんと録音していたのかも知れない) さて、ラテン・アメリカン・シンフォネットに戻ろう。 この作品の第1楽章はルンバ、第2楽章がタンゴ、第3楽章がガラーチャ、第4楽章がコンガと、ラテン・アメリカの知られたリズムを生かした娯楽的な作品ながら、ルンバの第1楽章はしっかりとしたソナタ形式で書かれていて、緩徐楽章がタンゴで三部形式。第3楽章はガラーチャというハイチ、キューバあたりのダンス・ミュージックのリズムで、これはスケルツォの代わりで、なんとなく「カイビラの小さな汽車」のような感じの曲で、実に楽しい! 終楽章はコンガ。これがどこのラテン・アメリカの国のリズムなのかは知らないが、フィナーレに相応しい華やかな音楽で締めくくる。ロンド形式の変形で出来ていて、ロンド・ソナタ形式と言ってもよいようだ。A-B-(展開部)-C-A-Bという形である。Cはマリンバ、ギターが伴奏する管楽器のレチタティーヴォ。第2楽章の追想のような悲しげで、艶やかで、何とも魅力的である。そして再現は一気に興奮の坩堝へ! こんなに楽しく、面白い音楽があまり聞かれないのはもったいない。もっと演奏会で取り上げたりすれば良いのに! この作品は4曲ある「ラテン・アメリカン・シンフォネット」の第4番にあたる。1940年に書かれたもので、もちろんモートン・グールドの自作自演の録音をはじめ、アブラヴァネル指揮ユタ交響楽団の古いヴァンガード録音もあり、決して日本でリリースされていないわけではないのだが、日本の音楽界はこうしたポップス畑出身(?)の作曲家を軽く扱う傾向があり、軽音楽としてしか見ず、ロクに紹介して来たとは言えないのではないか?ホルストの「惑星」ぐらいには聞かれても良いと思う。 ちなみに第2番の第2楽章は「パヴァーヌ」で、カーメン・ドラゴン指揮キャピトル交響楽団の見事な録音があった。あの組み合わせで全4曲の「ラテン・アメリカン・シンフォネット」の録音があったならば、一枚一万円でも私は絶対買う!!
by Schweizer_Musik
| 2006-09-11 08:26
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