今日の一曲 (27) ブリッジのチェロ協奏曲「祈り」
イギリスの作曲家、フランク・ブリッジをご存知だろうか?ブリテンの師として知られるこの作曲家は、実はロクに知られていない大作曲家でもある。
室内楽作品、それもロマン派的作風の初期の作品がいくつか知られている程度で、イギリスきってのモダニズムとしての彼の果たした役割は、全く顧みられることがないのはあまりに不公平であると思う。
ここでとりあげるのは彼の単一楽章で書かれた大作であるチェロ協奏曲「祈り」である。1930年頃に書かれたこの作品は「イギリスの作曲家は百年遅れている」と大陸の音楽家たちが馬鹿にするそれを黙らせ、唸らせるだけの傑作の一つだ。
第一次世界大戦前の大作としては4曲からなる組曲「海」があげられる。この作品は平易な語り口ではあるが、近代的な和声感は同時代のイギリスの作曲家たちを完全に凌駕している。
そして第一次世界大戦が終わる頃から、晩年までの約20年あまりの間に、ブリッジは時代の前衛に名を連ねる作曲家として、イギリスでは孤高の作曲家となっていったのだった。
不思議なことだと思っているのだが、生前の彼はイギリスのどの教育機関にも属さず、せいぜいヘンリー・ウッドの代役みたいな指揮の仕事や弦楽奏者として活動していただけで、作曲家としてはほとんど評価されていなかった。弟子のブリテンのみが、一生懸命、師の作品をとりあげ、ブリッジの偉大さを啓蒙する活動をしているに過ぎない。
これは、ブリッジの音楽がポリコードを使っていたり、ピアノ・トリオ第2番では(ポロディン・トリオの名演がある!!)調性感を極端に拡大し、ほとんど無調に達しながらも、これほど美しい響きと旋律性を保つことができるのかと驚嘆するほどの素晴らしい成果をもあげたのだった。
このトリオが1929年の作であるから、その翌年に書かれたのがこのチェロ協奏曲ということになる。
「祈り」という副題を持つチェロ協奏曲は、悲歌的協奏曲とタイトルにある。全編が悲しみに満ちていて、張り裂けそうな絶望感と救いを求める祈りがその主題となっている。
モードの扱いやオーケストレーションに、ドビュッシーなどの影響を指摘することは可能だが、この重さというか、深淵を感じさせる曲調はやはり独特のものと言わざるを得ない。調性は崩壊寸前まで拡大されている。また高次倍音を積極的にハーモニーの中に取り入れていて、斬新なサウンドを得ていることもまた事実だ。しかし、この美しさは一体何なのだろう!!二十世紀に書かれたチェロ協奏曲の中でも特別の作品だと思うのだが、私はたった一枚しかCDを持っていない。他にも出ているのだろうか?こうしたことに無知な私は、その辺りのことはわからないが、よろしければ一度お聞きになられることをお薦めしたい。私の持っている録音は、アレクサンダー・バイリーのチェロ、ジョン・カレヴェ(John Carewe)指揮ケルン放送交響楽団の演奏(PEARL/SHE CD 9601)である。但しこのCDは1988年に福岡のCDショップで買ったもので、果たして今も手に入るものかは知らない。願わくば再発されていることを祈りたい気分である。それほど良い演奏だった。
by Schweizer_Musik | 2006-09-30 05:01 | 今日の一曲
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