水曜日の授業の記録は書いておかないと、どうも忘れてしまいそうである。
眠いのだが、とりあえず何をしたかだけ…。 現代音楽の授業では、武満徹の「ガーデン・レイン」をとりあげる。和音のとらえ方、音楽の構成のしかたなど、1970年代の武満の典型とも言うべきものもあり、それがこの小編成で特殊な奏法をほとんど受け付けない編成で描かれているのだから、やはりとりあげておいた方がいいだろうと思った次第である。 また、先週、武満の「弦楽のためのレクイエム」をとりあげたということもある。この後、「地平線上のドーリア」をとりあげると後先になりそうなので、どうしようかとも思ったのだが(なら「地平線上のドーリア」を取り上げればいいのにという意見もわからぬではないが、ジャズの理論書がベースであるが故に、言わなくてはならないことが多すぎて、今はやはりやめておこうと思った次第である)、こちらの方がわかりやすいだろうと判断した。 ピーター・バートの研究書でも、この曲はろくに触れられておらず、しっかりとした分析をしたものはないようだ。(私が読んだことがないだけなのかも知れないが) ハーモニーが4度構成の和音で出来ていて、同じ頃書かれた雅楽のための「秋庭歌」があることを思えば、「雅楽」の和音を模したものともいえなくはないが、私は4度構成和音による作品であると分析している。 後半の4度の跳躍によるカノン風の部分(エコーの第2アンサンブルがカノンのように遅れてはいる部分)でそれはより明確になる。 また音が常にずれるように書かれていることも興味深い。きちんと合うことをはじめから拒否しているようだ。 全体的な特徴についてはこの位にして、少し細かく見ていこう。 この曲は明確に二部に分かれた外面的形式を持っているが、基本となるのは4度の響きである。転回された4度和声が、雅楽の和声に酷似していることもこの曲のベースになっているのではないだろうか? ブラスで雨を表現するという発想は、全く凄いものだ。そしてそれは明らかにドビュッシーに端を発している。 ブラスは2つのグループに分かれ、客席に向かって2つの五重奏が重なった形で配置される。一方はエコーであり、この辺りは「地平線上のドーリア」と同じ方式であり、彼が音を空間の中にとらえていたことは確実である。 前半はおそらくは「庭」の風景から受ける静的なイメージがベースになっていると思われる。それは4度の転回による和声群が、ほとんどロングトーンの練習のような形で演奏される。 それぞれが2つから4つ程度の和音の連結で出来たセクションを、2秒から4秒のパウゼによって区切られて演奏される。 エコーのアンサンブルが出てくるまでのその和音だけを取り出してみよう。 特徴はこれを見ただけでも明らかであろう。パスが大きく離れて演奏され、対する上声部は密集で響いたり、開離で響いたりとするのだが、まずバス(tuba)の使い方が特徴を成す。 次に、ハーモニーは4度の累積によって得られるものを転回して使用している。このハーモニーは転回することによってより狭い二度の響きと、開離の響き、あるいは三度の響きをともなっているが、ゆったりと動くことでサウンドだけでないメロディアスな部分も有している。そしてそれはほとんど内声で行われることである。 ここにあげた楽譜に続いて、エコーが伴う部分が演奏され、次第に動きが出てきて、後半へと移っていくのであるが、次はその後半について簡単に述べておきたい。 まず後半はメロディーが存在する。前半はおよそ拍節感のない響きだけによりかかった音楽であるのに対して、こちらはメロディーがあり、それが4度を行き来するメロディーとなっている点に注目すべきである。テーマを次の示しておく。 メロディーはEs音から始まるが、この4度の跳躍と、半音で4連符と5連符がぶつかる雨音の印象を描いた部分とがこの後半の大きな構成要素で、これに前半の和音の響きが絡んでできあがっている。 そして後半のはじまりの音であるEs音に全てが収斂し、後半の動的な部分が終わると、前半のハーモニーが少しだけ戻ってきて曲を閉じるのだ。 なんて面白い音楽なのだろう!ブラスで日本庭園が描かれ、そして雨を歌い上げる…。それらをいくつもの沈黙が縫うように配置される。20世紀後半に書かれた、最もユニークなブラス作品である。 ある学生が「これは音楽ですか」と私に訊ねた。わからなければ仕方ない。しかし、この作品は多くの人々によって支持され、今日も演奏され続けている。「これは音楽ですか」と訊ねた学生も、やがてこの音楽の素晴らしさに気づくことを願ってならない。
by Schweizer_Musik
| 2006-11-17 23:53
| 授業のための覚え書き
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