「芥川也寸志の世界」というCDを聞く
東宝レコードの「芥川也寸志の世界」というCDを聞く。映画音楽での芥川也寸志の業績を偲ぶ、意義深い一枚である。伊福部昭、武満徹などはこうしたものはよく出てくるが、芥川也寸志は少ないのではないか?あまり詳しいわけではないので、この件はこのくらいにしておこう。
確か、高校二年の時だった。ヤマハのJOC大阪大会で、芥川也寸志氏を間近に見た。私の師である早野柳三郎先生と一緒におられたのだが、実に懐かしい。1975年頃のことだが、その時、私はこのCDのLP版を持っていた。この後、芥川也寸志氏はヤマハを辞められ(色々な政治的な駆け引きがあったようだが)、私はそのヤマハに1981年に入社した。
だから、直接芥川也寸志氏と話したわけではないが、彼の存在は私にとって大きな影響を残した。
さて、そうした思い入れのある録音に「八甲田山」「八墓村」「鬼畜」といったその後に制作された映画の音楽を加えたものがこの「芥川也寸志の世界」である。
毎日映画音楽賞をとった1953年の「煙突の見える場所」の音楽など、彼の1950年の交響管弦楽のための2章や1948年の「トゥリニタ・シンフォニカ」、あるいは交響曲第1番の第2楽章などとの親近性は明らかで、実に興味深い。
特に交響管弦楽のための2章の第1楽章と使っている技法がほとんど同じというのには恐れ入る。だからといって手を抜いて書いているわけではないし、シンフォニックで当時としては近代的な新しい音楽だったのだ。
タイトルバックの音楽だけの収録はちょっと淋しい。「毎日映画賞」の受賞作をまとめたレコードが昔ビクターから出ていて、その中にはもっとまとまって収録されていたが、ただ音がかなり酷いもので、普通に楽しむには無理があった。
飯守泰次郎の指揮でトリビュート・アルバムの中に収められていた録音は良かったが、例によってテンポが上滑りする飯守泰次郎氏のあまりよくない癖?(なのかどうか知らないが)出てしまっていて、今ひとつだったが、あれもタイトル・バックの音楽だけであった。
1959年の「野火」など、ショスタコーヴィチのジャズ音楽そっくりの出だし(その後は大分違うけれど…)で、同じメロディーを繰り返しながら次第に盛り上がっていくスタイルはいつもの芥川也寸志である。

そんな彼も1960年代に入って大きくスタイルを変化させているが、映画音楽でもそれはうかがえる。1963年に制作された「雪之丞変化」、あるいはその翌年の「五弁の椿」での音楽は雅楽の響きを取り入れたり、ジャズの要素を取り入れたり(これは別にどうというものではないが)している。1961年の「ゼロの焦点」あたりからこの傾向は顕著となっていくのだが、「雪之丞変化」の音楽の弦の響きは明らかに笙のハーモニーにヒントを得ていると思われるし、「五弁の椿」ではハープに混ざって、京琴や琴を使用し、さらに尺八などの音色を配して当時としては新しい響きを作り出している。
この頃だったっけ、黛敏郎が「赤線地帯」で強烈な音楽を書いたのは…。

しかし、こうした新しい試みの間も芥川氏の音楽は一貫してメロディーの魅力を保ち続けている。彼の音楽の最大の魅力は技法的なところにあるのではなく、力強いメロディー・ラインの魅力である。それが1970年代に入って、あの「八甲田山」などで花開くのだ。
1969年の「地獄変」は管弦楽組曲のような形をとっていて、あれ「赤穂浪士」の音楽じゃないかと思ったり、なかなかに楽しませてくれる。やっぱりメロディーなのだ。彼が極端な前衛主義から常に一定の距離を置いていたのはこの彼の音楽のスタンスに関わっていると思う。
ダルムシュタット楽派など、戦後、一時主流を占めた前衛運動は、このメロディーを否定してはじまったようなところがある。彼の作品からはそうした音楽がやがて廃れること、そして、再び美しい響きとは何かを探り、人々に聞かれるべきものが何かをぶれることなく見据えていたように思われる。

「八つ墓村」の音楽の凄さ、深さは尋常ではない。1977年の作品であるが、エンド・テーマは傑作ではないだろうか。ここで、彼は耳に快いだけの音楽を書こうなどとは全く思っていない。どういう情念を描ききるかということに集中している。繰り返していくなかで盛り上がっていくスタイルは初期の作品と同じだが、その深みのある味わいは全く異なる。芥川也寸志という芸術家の人間的な成長というか、深まり方をここに聞く思いである。久しぶりに聞いて、感動した。

映画という商用音楽の分野なので、作風の変遷はうっすらとしかわからないが、それでも時代を映している音楽であると同時に、芥川也寸志の芸術家の成長をも映した音楽であると思う。ぜひ一度ご賞味あれ!

東宝レコード/PSCR-5819
by Schweizer_Musik | 2007-01-14 22:09 | CD試聴記
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