チェレプニンという作曲家は、今日、不当に無視されているように思う。かつてルツェルン国際音楽祭のテーマとして取り上げられたほどの作曲家であるのに、これはどうしたことだろう。
ロシア革命で作曲家の父(私はバレエ音楽「アルミーダの館」というのを持っていて、結構気に入っている)に従ってグルジアを経てパリに行き、パリ音楽院で学んだロシアの作曲家である。ピアニストとしても知られていて、演奏旅行で日本にやってきた時、1935年だったか、日本の作曲家奨励のためにチェレプニン賞をつくり、伊福部昭が世に出るきっかけとなったのは有名な話だ。 その伊福部昭の日本の作曲界における功績を思えば、日本の音楽愛好家はチェレプニンにどれだけ感謝してもし過ぎるということはないと思われるが、残念なことにそうしたことはなく、彼の音楽は日本でもほとんど聞かれることなく忘れ去られてしまっている。 さて、ナクソス・ミュージック・ライブラリーにはチェレプニンの録音がいくつかあるのだが、何故だか代表的作曲家の中にはチェレプニンの名は見あたらず…。BISやfirst editionといったレーベルが参加しているのにこれはおかしいと探してみると、やはり何枚か見つけた。 これは紹介せずにおくのはもったいないことであると思った。何と言っても伊福部昭や早坂文推の恩人でもある。それに東洋趣味の彼の作風はそういうことを除いても面白いもので、九音音階など結構参考にさせて頂いている。 ということで、まず、ルイヴィル管弦楽団の委嘱で1957年に書かれた組曲を紹介したい。first editionの中の一枚。レーベル別のカタログから比較的簡単に見つけられるだろう。 この魅力的な作品は、どうしてもっと聞かれないのだろうと不思議でならなかった。ホイットニーの指揮はいつもながら実に手慣れたもので、上手い。アンサンブルは結構ラフなのだが、聞かせ方が上手いのでそれに気付かないままに音楽を楽しんでしまう。そんなところがある。第一曲が「牧歌」(あまり牧歌らしく感じなかったけれど)第2曲が「戦闘」(これは良い曲。ショスタコーヴィチの暗く重たい音楽と対置させて聞いてみると良い)、第3曲は「ノスタルジア」(美しいメロディーと響きのあふれた親しみやすい作品)、第4曲が「ロンド」というわけで、これはなかなか愉しい作品であった。またルイヴィル管弦楽団の演奏も良い。このオケが委嘱し初演したもので、ホイットニーはその初演者であるはず。ということはこの作品の演奏の基準がここにあると言ってもよい。 続いて、BISレーベルにある小川典子がピアノを担当したピアノ協奏曲第4番(1947)をとりあげよう。 彼の作曲の特徴がよく出ていると思う。特にその東洋趣味は濃厚で、ファンタジーという副題も納得できる。 小川典子のピアノは硬質な響きでこの作品にあってはいると思うが、私の好みの音ではなく、もっと響きの広がりがほしいと思った。ラン・シュイの指揮するシンガポール交響楽団は素晴らしい出来である。ルイヴィル管弦楽団と申し訳ないが格が違う。 私の友人にも東南アジアのオケというと、学生オケの延長みたいな下手なものばかりと思いこんでいる、物を知らない愚かな奴がいた(最近マレーシアの素晴らしいオケを聞かせて宗旨替えをさせたので過去形となっている)。そういう色眼鏡で聞いてはいけない。近代的な、実に上手いオケだ。 第1楽章 "Eastern Chamber Dream" とある。基本的な二管編成で書かれたオケはちょっとラヴェルみたいな響きもする。一度盛り上がって静かになったらチェレプニン独特のヘキサトニックで出てくるメロディーが、まるでラヴェルの左手のためのピアノ協奏曲そっくりだったりして、面白かった。 第2楽章 "Yan Kuei Fei's Love Sacrifice" 。オーボエの長いソロの後、スケルツァンドな走句をひとしきりピアノが奏でた後、よく出来たピアノ協奏曲「黄河」のような音楽が続く。盛り上がってはゲネラル・パウゼ、そしてまた静かに次の音楽がはじまるという形で曲が進んでいくが、かなり描写的で曲調が大きく変化していくので、まとまった感じをあまり受けなかった。 ただ、個々の言い回しというか、フレーズの描き方がユニークに思われた。しかし、これほど脳天気に五音音階で私は書けない…。これではまるでプッチーニのトゥーランドットの終幕のようだ。それは終楽章の冒頭にも言える。オーケストレーションや構成が上手なので、やはりよく出来たピアノ協奏曲「黄河」のような音楽か。 チェレプニンの音楽の紹介、まだまだ続く予定。
by Schweizer_Musik
| 2007-03-04 09:26
| ナクソスのHPで聞いた録音
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