涼を求めて (5) ジークフリート牧歌
昨日はちょっと多忙につき、ブログを書いている時間がとれなかった。それに夜になってサッカーなどを見てしまったので、今朝はストレスがとれないままに寝坊をしてしまった。
しかし、ヨーロッパの熱波は気の毒である。ドイツやスイス、北欧はそれほどでもなさそうだが、ハンガリーやルーマニア、イタリアは厳しい暑さのようで、大変だろうなと想像している。
ヨーロッパもアルプスの北側はそう暑くないので、スイスであるが、アルプスの南側であるルガーノやロカルノに行った時はそのモーレツ暑さに辟易としたものである。
日本のように高温多湿の国では、列車の冷房なんて当たり前だけれど、スイスでは有名な氷河急行でも最近まで冷房はなかった。冷房のついた列車でも基本的に弱冷房で、いろんな場所で冷房が入っていて涼しいなどということはないのだから、気温が30度以上に上がると、とんでもないことになる。
だから、こんな暑い日々が続くのでは、もう少し涼を求めてというシリーズを続けた方が、気分だけでも涼しくなるのではないだろうか?

夏と言えば、ヨーロッパでは音楽祭のシーズンである。中でもザルツブルクやルツェルン音楽祭は人気が高い音楽祭である。ウィーン・フィルやベルリン・フィルといった人気楽団が来るし、ポリーニなどの人気の高い演奏家たちがやって来るのだから、当然人気がでるのだ。
ルツェルン音楽祭は、ナチスのオーストリア併合のおかげで出来た音楽祭だった。1938年4月にナチスがオーストリア政府を恫喝して併合した結果、オーストリアのユダヤ系の音楽家たちは一斉に職を失い、中には命まで失うという悲劇に見舞われた。
その中には、ブルーノ・ワルターもいたのだが、ナチスが政権をとったことで、ライプツィヒの職を失ったワルターは、こんどはウィーン・フィルの職を失い、貴重な蔵書、全ての財産も失い、スイスのルガーノの家に滞在せざるを得ない状況となってしまうのだった。
この話はいつかまた…。
でもこういう状況に追い込まれた多くの音楽家たちが一斉にドイツ、オーストリアから脱出してスイスやフランスに出て行ったのだった。そしてそこからイタリアなどを経由してアメリカを目指した者も多かった。まだ戦争は始まっていない。
この事態を受けてザルツブルク音楽祭には、トスカニーニやワルター、あるいはブッシュなどが出演しないことが決まり、行き場を失った音楽家たちを集めて、ルツェルン音楽祭が始まったのだった。
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ルツェルンの町にはワーグナーが長く住んでいた。ここで多くの作品が書かれたのであるが、その中の一曲に「ジークフリート牧歌」がある。この町でようやく長年の不倫状態を解消して結婚したワーグナーが、愛妻コジマの誕生日に贈った作品で、たった17名で演奏されるように書かれてある。
これは、ルツェルンの彼の家の階段に並ぶことの出来る楽員の人数である。そしてその誕生日(12月25日!)の朝、チューリッヒの歌劇場のメンバーからなる演奏家たちをワーグナーが指揮してこの曲が、ワーグナー邸の一階と二階の間の階段に陣取った17名の演奏家(中には後にリングの初演の指揮をしたハンス・リヒターも居た)によってこの作品は初演されたのだった。
時ならぬ調べに目覚めたコジマと子供たちの喜びようは、ここに書くまでもないだろう。
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写真はワーグナーが指揮したと言われる二階の踊り場である。
さて、何故、こんな話を持ち出したのかというと、この曲がその初演から六十八年を経て、このルツェルンの旧ワーグナー邸で演奏したのが、ザルツブルクに出演することを拒否した、名指揮者トスカニーニであったからである。そしてこの曲の演奏でもってルツェルン音楽祭がはじまるのだった。
四森林州湖(別名ルツェルン湖)の岬にある白亜の旧ワーグナー邸を、私は数度訪れている。ここからの風景は、おそらくワーグナーが見ていた風景とほとんど変わっていないに違いない。そして夏の昼下がりの、ちょうど今頃の季節、ルツェルンは音楽祭目当ての多くの国からの賓客で賑わうのである。
意外にも、このジークフリート牧歌を初演の時と同じ小編成で演奏したものは少ない。オットー・クレンペラーが指揮したものとゲオルク・ショルティ指揮ウィーン・フィルをあげておこう。良い演奏としては他にもカール・シューリヒト指揮バイエルン放送交響楽団によるコンサート・ホール録音のものやハイティンク指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団による1974年の録音などがあるが、これらは悉く大編成のもので、ちょっと重厚過ぎるようにも思う。
ナクソスにはヒコックスがノーザン・シンフォニアを指揮した小編成の録音があり、若干音楽の運びが硬い印象はあるものの、雰囲気は出ているので、小編成が見つからない場合はお薦めだ。
by Schweizer_Musik | 2007-07-26 10:16 | CD試聴記
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