ラザール・ベルマンが亡くなった。フィレンツェで亡くなったということで、あの巨匠も近年はイタリアに住んでいたのかと思って意外な気がした。フィレンツェと言えば、私の恩師の沖本ひとみ先生のピアノの師である原智恵子氏が長く暮らした町だったことを、このログをアップしてから思い出した。
情報によると、このフィレンツェに長く暮らしておられたようだ。 ラザール・ベルマンは、私にとって長い間ロクに聞かないでいたピアニストだった。 70年代にギレリスが「私とリヒテル、二人でもかなわない」と言ったとかいうコピーとともに西側(素晴らしいことに今や死語となった)に出てきたベルマンを、大阪で聞いていることを、今朝、いきなり思い出した。とは言え、何をどう聞いたか、さっぱり忘れている。演奏が無味乾燥なつまらないものであったとは思えず、忘れてしまった理由は、私の記憶力の問題なのかどうか・・・。 彼が私たちの前に出てきた時の音楽は、リストの超絶技巧練習曲とあと一曲、確かスペイン狂詩曲だったと思うが、すごく技巧的な作品を、あっけらかんと弾ききって私たちを唖然とさせる、そんな演奏で度肝を抜いたのであった。 なるほど、技巧は凄いがなんだか心に残らない演奏家だなと、心の片隅で思っていた頃、カラヤンと組んだチャイコフスキーの協奏曲が出た。 あれは実に平凡な出来だった。私はかつてのリヒテルとカラヤンが録音した名盤を思い起こしていたのに、全くそれとは異なるカラヤン・ペースのふにゃふにゃしたオケに、全く平板なピアノで、私は本格的に幻滅してしまった。以来、私は熱心なベルマンの聞き手をやめてしまう。 そんな私が、再びベルマンに関心を抱いたのは、私の友人がチャイコフスキー・コンクールを受けるというので、私自身の勉強のために買い込んだチャイコフスキーのピアノ協奏曲のCDの中に入っていたベルマンとテルミカーノフが組んで再録音した一枚を聞いてからであった。 あれは、原典版のピアノ協奏曲の久しぶりの録音で、昔、ブルメンタールの録音で聞いたことがあった。第一楽章冒頭の、有名なメロディー(あれは決して第一主題ではない、強いて言うならば序奏のメロディーである)のバックでピアノが、豪壮な和音を響かせる場面で、原典版(正確には初稿)においては、アルペジオで優雅にピアノが和音を響かせていくというショッキングなところがある。 それをベルマンはいかにも上品に響かせた。私はそれを聞いて、このピアニストも相手によってはずいぶん変わるのだなぁと思ったものだ。この演奏は私の琴線に触れる名演の一つとなった。以来私は再び彼の録音を聞くようになった。 シューマンのソナタやリストの巡礼の年全曲、ジュリーニと組んだリストのピアノ協奏曲などを楽しんで聞いていた。技巧が全面にでるようなことはなかった。いやそれどころか、ありあまる技巧を背景に、余裕綽々で音楽そのものに没頭しているようなところを感じるようになったのだった。あのピアニストの素晴らしさは本物だった。カラヤンとの録音で私が誤解したのは、私の聞く力が未熟だったからだと痛感する。 そして、この大ピアニストの訃報に接し、久しぶりにあの衝撃のデビューとなったリストの超絶技巧練習曲を聞くにつけ、いかにこのピアニストが優れていたかをつくづく思い知った次第である。 素晴らしいピアニストがまた冥界に旅立っていった。合掌。
by Schweizer_Musik
| 2005-02-15 18:22
| 音楽時事
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