ハイティンク指揮ベートーヴェン/交響曲 第9番「合唱」**

ベルナルト・ハイティンクという指揮者は、曲によってものすごくロマンティックな演奏をするが、逆に空回りして中途半端に端正な(平凡な)演奏に陥ることもよくある。成功しているのはライブでまとめられたマーラーの交響曲選集とチャイコフスキーの交響曲全集だった。しかし、古典派の作品についてはあまり得意にしていないのか、録音は少ない。モーツァルトなどあまり録音していないが、「魔笛」の録音はなかなか良い演奏だったので、意外にモーツァルトにも相性がいいのかもしれない。しかし、デビュー以来マーラーやブルックナーといった大物の交響曲全集を中心にレコーディングしてきたので、そういったロマン派の作品のスペシャリストというイメージがついてしまったのだった。
このベートーヴェンの交響曲全集は1980年代に集中して録音されたものだあるが、第九だけはこの前に別のキャストで確かデジタル録音されていたはずで、私も昔持っていた。実家に帰れば確認できるはずなのだが・・・。
このCDの録音は1987年12月に行われている。正攻法のよくまとまった録音である。強引なところは皆無で全て自然体であるために、ぼんやり聞いているとベートーヴェンの書いたはずのアクセントなどがちゃんと演奏されていないのではないかとまで思えてくるのだが、スコアを取り出して聞いてみると、もちろんそんなことはなく、ちゃんと演奏されているのだ。何故こんなことを感じたのか。それは、一つ一つのフレーズが意味をなしていないところにあるように思える。フレーズが、あるいは動機がつながってもう一つのフレーズを作り出し、うねりを生み、感情を揺さぶるというベートーヴェン独特の大きな波のような表現がここにはないのだ。
第1楽章をしばらく聞いていて、立派によくまとめられた本物のプロの仕事であることはよく理解しているつもりだが、一向に感動できない自分に、何がどうなったのかわからなくなってしまった。
淡々とした演奏・・・。それはスケルツォになっても変わらない。冒頭の稲妻のような開始を重さもなくサラリとやってしまうのは、私に言わせれば犯罪に近い。オケはとびきり上手いし、指揮もまったく整然としている。しかし、ベートーヴェンのこの曲は整然とした演奏を最初から拒否しているところがある。アインザッツが揃っている必要すらない。こう表現したいというカオスの固まりが必要なのに・・・。
緩徐楽章の第三楽章はやっと満足のいく表現が得られる。ここでの息の長いフレーズはハイティンクがチャイコフスキーの第五の第2楽章でやったものと共通している。ダイナミック・レンジはフルトヴェングラーなどからするとずいぶん狭いが、音楽的感興は十分に深い。
終楽章におけるソリストはよくがんばっているが、全体に好不調の波がある。ルチア・ポップは声の延びがなく好調ではなさそうだ。ワトキンソンは難しいパートを上手くこなしている。ペーター・シュライヤーはよくこの曲を歌うが、私には軽すぎるように思うが、そうしたところを荘重な表情でうまくこなしている。ロベルト・ホルはこのテノールに対してやや響きが重すぎるように思うが、どうだろう。
しかし、オペラで十分な経験を積んでいるハイティンクは、こうした声楽の扱いはまことにうまく、目立たないようにフォローしているようだ。
一方合唱の方は、素晴らしい出来である。ピッチも正確で難しいベートーヴェンの第9を全く危なげなく、自信たっぷりに歌いきっている。欧米では日本のようにベートーヴェンの第9を年末にやるという習慣はなく、日本のアマチュアの方がずっとうまい場合があるが、この水準で歌われると、さすがプロと思う。
ハイティンクの指揮が多少整然としすぎているところはここでも不満であるにしても、オランダ放送合唱団の出来が良く、十分に聴き応えのある演奏となっている。

UCCP-9550 ¥1,000(¥952) フィリップス
by Schweizer_Musik | 2005-02-20 22:20 | CD試聴記
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