昨日は授業で使う現代音楽の音源を入れたハード・ディスクを忘れて出かけてしまい、焦りに焦ってしまった。
昨日はオーケストレーションの授業でイベールのアルト・サックスと管弦楽のための室内協奏曲を、そして現代音楽の授業で武満徹の「地平線上のドーリア」をとりあげる予定で、準備していた。裏返せばこれ以外の準備をしていなかったので、聞かせるべき音源がないというのは何もできない状態であるので、レッスンにやってきた学生に謝って待たせて、その間に資料室に行って武満のCDを借りてきた。イベールは資料室に残念ながら無かったので、ネットにアクセスしてダウンロードして間に合わせた。 20年前だったら、完全にアウトだっただろう。良い時代に生きているものだ。 武満 徹の「地平線上のドーリア」は1966年に書かれた作品。私の持っている音楽之友社刊のスコアは600円で、大学の二回生の時に買ったもの。だからかなり年期が入っているものだが、学生時代に座右のスコア(笑)だったこともある曲で、若杉弘指揮読売日本交響楽団の録音は耳にタコができるほど(なんて言い古された慣用句…創造性の枯渇…)である。 武満の「地平線上のドーリア」は、弦楽アンサンブルのための作品でありながら、様々な奏法を使って極めて多様なサウンドを作り出している。 そして何よりも、ハーモニクス・ピッチと作曲者が呼ぶ馬蹄形に並んだ前列のアンサンブル(8人)に対して、離れてステージ奥に一列に並ぶエコーと呼ばれるアンサンブル(9人)の2つのアンサンブルのために書かれていて、弦楽オーケストラでありながら遠近感というか、音の空間への指向が強く出ている作品となっている。 また、聞いた感じでは無調性の作品にも聞こえなくはないが、タイトルが示すように旋法を基礎としていて、当時の音楽界で流行っていた?セリエルで技巧的な音楽に対する、武満独特の抵抗の意味も込められていると言われる。 いずれにせよ、一般的な意味でのドリア旋法ではないにせよ(ジャズの理論書にあるリディアン・ディミニッシュなどの音階を応用していると言われている)、この音楽には「弦楽のためのレクイエム」から続く世界観が底流にあると思われる。 曲の構造は意外なほど単純な三部形式で、省略された再現がある点も「弦楽のためのレクイエム」と共通している。 しかし、あの作品以上にこの曲は東洋的というか、日本の伝統的な音楽に向かう姿勢が聞かれるのは実に興味深い。 武満はこの作品において、弦のハーモニクスを多く使っている。その量は半端ではない。そしてそのハーモニクスにユニゾンとテンション・ノート(二度などでぶつかった音)によるピチカートを添えている。ピチカートは鼓の音である。ハーモニクスは笙の和音だと言われるが、その響きの独特な有り様は聞く者に強い印象を与えずにはおかない。 また中間部に動きのある部分を持ってきて(バルトーク風のカノンまで用意されている。というより、私にはストラヴィンスキーの「火の鳥」を思い出させるものだが…)いる点も「弦楽のためのレクイエム」の構成方法と酷似している。語法はかなりの深化をとけでいるが…。 冒頭の全音符の連続も印象的だ。メロディーなどの水平方向のラインを捨て去ったその音楽は、明らかに垂直方向の響きの世界に向いている。 この曲をどれだけ聞き、スコアを読んだことだろう。この曲を聞く度に当時のことが思い出され、ちょっと胸キュンの音楽なのだが、武満の音楽が私の「懐メロ」であるなんて話したら、以前、学生達から変な顔されてしまった。 やっぱり変かなぁ…。 イベールの小協奏曲は先週に続いて第2楽章をとりあげる。オケの書き方としてこれほど洗練された書き方があるだろうか? ちょっと専門的な部分も多いのでこの位にしておくが、第2楽章冒頭の弦の和音など、明らかにブルー・ノートで使う7thのコードのつかみ方であり、ヨーロッパにジャズが入ってきて20年近く経って、すでにその使用方法は洗練の域に達したことを示している。 こんなことを昨日の授業では行った。
by Schweizer_Musik
| 2008-01-31 08:57
| 授業のための覚え書き
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