ドビュッシーの初期の作品である交響組曲「春」は不幸にも最初の版は製本所の火事で焼失した。二台のピアノと合唱の版は難を逃れたのだが、もともとローマ大賞の宿題として書かれたのに、サン=サーンスにオケが鳴りにくい嬰ヘ長調がやり玉にあげられるや、その印象主義的な作風が批判され、受け取ってもらえず、結局そのまま店ざらしとなってしまった。
この作品が今日のように管弦楽作品としてあるのは、弟子のビュッセルが作曲者の指示を受けてアレンジしたおかげである。 牧神の午後への前奏曲のように徹底した印象主義、オーケストレーションのインスピレーションを求めては気の毒だが、私は結構この作品がお気に入りで、大学の卒業作品はこれと、ピアノと管弦楽のための幻想曲を一生懸命アナリーゼしてそれ風の作品を模造していたものである。 私の若き日の愚かな行為はともかく、以来この作品は私のお気に入りとしてずっと愛聴してきた。 第1楽章の冒頭、何気なくフルートとピアノのユニゾンで始まった後、フワリと9の和音で調性をぼかしてしまうあたりの遠近感の描き方に私は陶酔していた。 第2楽章の民謡のような素朴なメロディーをテーマにしながら、次第にシンフォニックに展開し盛り上がっていくあたりは、後のドビュッシーからは滅多に聞けなくなったもので、彼がこうしたしっかりとした書法を手の内にしていたこと自体にもっと目を向けるべきだと思う。 この曲の柔らかな遠近感とフワリとぼかしたような管弦楽法は、春霞ののどかな日本の春の風景にピッタリだ。花見の席に流すには格調が高すぎるかも知れないけれど、もともとあったという合唱はきっとこのフレーズに違いないなどと(もちろん合唱の譜面は手に入るはずだけれど…)思いながら聞くのも、なかなか味わい深い。 演奏は、LP時代からの愛聴盤であるマルティノンの全集をもっぱら聞いている。他の演奏もあるけれど、これほど私の好みにあった録音はあまりないためだ。残響はほどよく、オーケストラの細部までよく聞き取れるもので、初期の日本盤は今ひとつだったけれど、最近出たEMIのラヴェルの全集とともにまとめられたボックスは、再リミックスしたようで、実に具合がよい。 お聞きでない方はぜひ一度お試しあれ。HMVで全8枚組がわずか3,852円で手に入る。なんということだろう…。
by Schweizer_Musik
| 2008-03-10 00:00
| 春はあけぼの…音楽を楽しもう
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