曲のタイトルについて
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自分の作品にタイトルをつける。これが意外と難しいもので、学生たちに指導していてもこのタイトルをいい加減に付けるか、付けないで済ましてしまう者が多い。
私はタイトルを必ず付けることにしている。若い頃はちと気恥ずかしいところもあり、コンポジションや○○のための△章とか、どうでも良いようなタイトルをつけていたこともあったけれど、ある頃から考えてタイトルをつけるようになった。曲名から聞く人が色々と想像を広げてもらった方が分かってもらいやすいと思うからだし、大切な我が子と言ってよい作品に良い名前を与えるのは作り手の大切な仕事と思うようになったからでもある。
しかし、変わったタイトルが付いている曲も多い。ハイドンの交響曲には「朝」「昼」「夕」の三部作があるが、これなどはかわいいもので交響曲第55番変ホ長調には「校長先生 "Der Schulmeister"」、交響曲第59番イ長調には「火事 "Feuersymphonie"」、更にエスカレートしたわけではないだろうが、交響曲第60番ハ長調には「薄馬鹿 "Il Distratto"」とかわいそうなタイトルがついている。
ハイドンが自分でつけたわけではなさそうではあるが、他には「熊」や「告別」「びっくり」などのタイトルもよくご存知であろう。
変わったタイトルでは1915年にストラヴィンスキーが書いたピアノ曲に「ドイツ野郎の行進曲の思い出 "Souvenir d'une marche boche"」というのがある。第一次大戦でスイスに足止めされ、更に故郷のロシアも政情不安でまもなく革命で全ての収入が途絶えることになる作曲者の心中がうかがえるような作品である。
ベートーヴェンは、1795年に書いたロンド・カプリチオ "Rondo a capriccio" ト長調に「失われた小銭への怒り "Die Wut ?ber den verlornen Groschen"」というタイトルが付いている。昔、カタログでこの作品のタイトルを見かけて、どんな曲なのだろうとか、ベートーヴェンて細かいことにこだわるタイプだったのではなどと想像したものである。
ニールセンのラプソディー序曲「フェロー諸島への幻想の旅行 "An Imaginary Trip to the Faroe Islands"」のようにきれいなタイトルだったら良いのだけれど、面白いタイトルの曲は他にも色々ある。
ドビュッシーに実出版の曲集があり、それは今日では「忘れられた映像」という名前が付けられて演奏されるようになったが、、「いやな天気だから、もう森には行かない」の諸相 Quelques aspects du "Nous n'irons plus"という面白い名前の曲がその曲集に収められている。
この「いやな天気だから、もう森には行かない」というのはフランス民謡で、ドビュッシーが付けたものではないのだけれど、このタイトルのインパクトは大きく、はじめてルヴィエの全集で聞いた時は、どんな曲なのかととても関心を抱いたものである。
ちなみにこれの曲のアイデアは、後に「版画」の中の「雨の庭」という名曲へと進化するのだけれど、タイトルについてはドビュッシーはこだわりを持っていたに違いない。
1922年、ブロッホが書いた4つのサーカスの小品 (1922)は、私の好きなサーカス・ネタの曲で、第4曲には「ヘビー級選手と小人の会話とダンス」というタイトルがついている。これだけで聞いてみたくなりませんか?
まだまだ変わったタイトルの曲は多いけれど、自作にタイトルをきちんと付けるということは、作曲する時のこだわるべき点を明確にするという効果もあるに違いないと私は考えている。
だから面倒がらずに、タイトルをよく考えてほしい。もちろん、作品の身の丈にあったタイトルでなければならないのは、当たり前だけれども…。1〜2分の小品にシンフォニックとか、大…とか付けると、JAROからクレームが来るのでご用心、ご用心!
by Schweizer_Musik | 2008-06-21 18:36 | 授業のための覚え書き
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