この歴史的名演が1300円だとは!!もう良い音楽も価値が無くなったのだろうか。真剣に考えてしまった。ずっと値下げされず、定番中の定番としてこの演奏があった。ベートーヴェンもブラームスもこの演奏を超えるものなんて考えられなかったし、今もそれは同じだ。ブラームスはジョージ・セルの晩年の最も充実した演奏の一つだし、オイストラフもロストロポーヴィッチも脂ののりきった時のものだ。ロストロポーヴィッチもこの後、亡命してからは指揮活動に重きを置くようになり、このような気合いの入ったチェロを聞かせることはなくなった。(あのバッハの無伴奏のつまらなさ・・・悲しかった)
ベートーヴェンのカラヤンの気力の充実、リヒテル、オイストラフ、ロストロポーヴィッチというロシアの巨人たちとの丁々発止とした演奏は、ジョージ・セルとのブラームスと共に、二十世紀最高の遺産である。 ブラームスの作品は1887年にスイスのトゥーンで書かれた作品である。二重協奏曲というよりもバロックの合奏協奏曲のようなところがあり、初演の時にはちょっととまどった人が多かったようだ。不和となっていたヨアヒムとの和解を演出したのもこの協奏曲で、この曲はそのため「和解の協奏曲」とも呼ばれている。ヨアヒムが好きだったヴィオッティのヴァイオリン協奏曲第22番の動機が第1楽章に忍ばせてあるが、なるほど「和解」の曲らしい。 このちょっと古風な作品が、あの風光明媚なベルナー・オーバーラントの景勝地トゥーンで書かれたとは面白いことだ。この年、彼はベルナー・オーバーラントの色んなところにハイキングに行っている。こんなことを書き始めたら止まらなくなってしまうので、この辺にしておこう。 それにしてもオイストラフの若々しいボウイングは驚異的だ。59才のヴァイオリニストとは到底思えない。ロストロポーヴィッチは一番若く、この録音の時は42才だった。気力の充実がとてつもないレヴェルに達している。亡命する前の彼の凄さは、その後の彼と比べてはいけない。これはもう彼が神だった時代の録音なのだから。 第1楽章の力強い演奏は、もう比べる演奏を知らない。これ以上の感動をもたらす演奏があったら聞かせてくれと言いたい。第2楽章の息の長い長い歌は神業と言うしかない。二人のソロと渡り合うジョージ・セルが指揮するクリーヴランド管弦楽団の充実した響きは、近代オーケストラの理想である。終楽章の筋肉質の演奏は、それでいてスケールがとてつもなく大きく、信じられないほどの説得力を持っている。誰もが一度は聞いておくべき名演である。 ベートーヴェンは当時の夢の組み合わせだ。カラヤンがこうした合わせモノで聞かせる素晴らしさは、ユージン・オーマンディやアンドレ・プレヴィンのそれと同じく、ソリストをたてるだけでない、もの凄い緊張感で掛け合う面白さにあると言って間違いあるまい。 ベートーヴェンの作品としては駄作とか、大した作品でないとか、散々な評判のこのトリプル協奏曲は、ブラームスのドッペル協奏曲以上にベートーヴェン流合奏協奏曲で、ピアノ協奏曲のような華やかなソリストのフレーズに欠けるため、聞いた人がちょっととまどってしまうのではないかと考えられる。 しかしそういう作品も、この「夢の組み合わせ」で聞くともう脱帽!!カラヤンはこの世紀のソリストたちと出会って、もの凄いはりきりようだ。私はカラヤンなんてと言う人には、演奏者を告げずにこれを聞かせることにしている。ここに聞くカラヤンのベートーヴェンはこれ以上の演奏が想像つかないほど素晴らしい。 第1楽章から充実しきった響きで、作品が駄作だなんていう評価を吹き飛ばしてくれる。大変な力作だ。主題を入念に展開していく手法は全くいつものベートーヴェンである。3つの楽器の中でややピアノの存在感が薄いと思うのはベートーヴェンのせいというより、初演に予定していたルドルフ大公のピアノを想定してのことだが、リヒテルのピアノ故に不満を感じることはない。そして何よりもオイストラフとロストロポーヴィッチの出来がもの凄く良いのだ。 実は、1970年のライブでキリル・コンドラシン指揮モスクワ・フィルハーモニーによるモスクワ音楽院大ホール(懐かしい!!)のライブがあるが、このカラヤンとの録音の後のことで、カラヤン盤にそっくりの演奏だった。ただ、ソロのからみについてはこのカラヤン盤ほどの完成度には達しておらず、第2楽章以降はそのCDには収められておらず、残念だった。これほどのソリストたちであっても、このカラヤンとの共演で達した水準を二度と記録(レコード)出来なかったのではないだろうか。 さて比べるものもない第2楽章以降であるが、チェロが高音域で歌う息の長いテーマだけでもう納得してしまう。ピエール・フルニエが演奏したフリッチャイ盤もこの部分良かったが、ロストロポーヴィッチは空前絶後だ。ピアノが絡んできて木管にメロディーが移って美しさは奥行きを増し、ヴァイオリンが加わり輝きが与えられる。短い第2楽章を充実した第1楽章のあとで印象的に演奏するのは至難のことだが、カラヤン盤はさすがに文句なしだ。 ポーランド風ロンドという第3楽章は単に聞き惚れるしかない。この演奏は最初から最後の1音まで空前絶後の録音なのだ。音楽ファンなら、古典音楽に関心があるなら、座右に置くべき一枚。久しぶりに聞いて、本当に感動してしまった。録音も良い。テープのヒス・ノイズは録音年代なりにあるが、とても良いバランスで録音されている。さすがカラヤンだ。 EMI/TOCE-13077
by Schweizer_Musik
| 2005-03-02 06:29
| CD試聴記
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