実はムーティという指揮者は、私の苦手な指揮者で、世の中に彼のファンがたくさんいることを承知しながらも、どうしても共感できない指揮者である。張りつめたカンタービレで軽快に飛ばす彼の演奏を、好きな人は絶対好きなのだろうが、私はどうしてもついていけないでいる。
彼のチャイコフスキー全集やベートーヴェンの全集も持っているし、ヴェルディの歌劇など、かなり聞いてきたが、いつもどこかで違和感を感じていた。ファンの皆様、ごめんなさい・・・。 この協奏曲の録音はガヴリーロフの演奏に興味がそそられるとは言え、1979年のムーティの録音ということで、まだ強烈な彼の個性が全面に出ているとは言えない。1974年のチャイコフスキー・コンクールの優勝者である彼は、豪壮なピアニズムで1980年代まで有名であった。このコンクールで第2位に入ったのがチョン・ミュンフンであるし、第3位にはアンドラーシュ・シフや惜しくも亡くなったがユーリ・エゴロフがいる。この年のコンクールは大変レベルが高かったと言えよう。近年のチャイコフスキー・コンクールの評判は散々であるが・・・。これについては色々しがらみがあるのでこの辺で。 で、演奏はどうか。全体として言うならばこの演奏はなかなか良い。ムーティもいつもの私の好みでない「アク」がなく、率直で豪快だ。ただ響きが浅く外面的なのはムーティの個性だから仕方ない。でもなかなか感興豊かな良い演奏である。 そしてガヴリーロフのピアノは手放しで素晴らしい!!主部への移行部での奥行きのある表現は独特だし、主部での切れ味鋭い表現は、説得力がある。まだ23才だったガヴリーロフの才気溢れる演奏だと言えよう。強弱の幅が広いため、表現の幅が大変広いのが特徴であるが、第2主題などのデリケートな表現で示す美しいタッチもまた、魅力の要因となっている。 第2楽章は大きなアゴーギクを伴っている。デリケートな表現でオケ共々よく歌う演奏だ。強弱の幅は広く、デリケートで素晴らしい。第3楽章は大変速いテンポで疾走するが、全く危なげのない演奏にガヴリーロフの底知れないピアノの演奏能力を聞く。オケのアンサンブルはさすがにフィルハーモニア管弦楽団であり、全く問題なく、ムーティの指揮によく反応しているし、乱れや破綻はほとんどない。これはなかなかの名演だ。 このCDには協奏曲の二年前、カヴリーロフが21才の時に録音した3曲の小品も合わせて収録されている。主題と変奏曲op.19-6はポストニコワの演奏で持っていたが、あれはあまりに硬いタッチで弾かれたもので、私は非常に不満足だったが(資料的価値は認めるが…)このカヴリーロフの演奏はそれぞれの変奏の性格をよく描き分けていて、心から満足できる出来である。 バラキレフが1869年に作曲した名曲「イズメライ」は、おそらくこの曲最高の演奏ではないだろうか。カッチェンのちょっと重厚とも言える(あまりこの曲には似つかわしくないが・・・)やチェルカスキーの名技性を明らかにした演奏など良い演奏もいくつも残されている名曲だが、ガヴリーロフはそれらの中でも水際立っている。緊張と駐中が音楽の持つ華麗さと結びついて、強い説得力を発揮している。 最後にリストのパガニーニによる超絶技巧練習曲集 (1838) の第3曲「ラ・カンパネラ」である。技術的に圧倒的なガヴリーロフによる演奏はさすがにトップ・クラスの輝かしさを獲得している。ラ・カンパネラの数ある録音の中でも一二を争う名盤であろう。 協奏曲は***(注目)か。でもソロ作品は全く見事だ。トータルで****(推薦)としておくことにしよう。 EMI/TOCE-13026
by Schweizer_Musik
| 2005-03-02 22:08
| CD試聴記
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