2005年 04月 17日 ( 2 )
デメンガ /バッハ・チェロ組曲第5,6番,細川俊夫,イ・サン作品集 *****(特薦)
c0042908_126396.jpgデメンガという名チェリストをご存知だろうか?現代音楽に興味をお持ちならきっと一度や二度は耳にされたことがあるだろう。彼はスイス出身の恐らくは現在最も注目すべき演奏家の一人である。
彼がバッハの無伴奏を現代の作品とともに録音してシリーズ化?しているが、このCDもそんな一枚(二枚組)だ。演奏されているのは無伴奏チェロ組曲の第5と第6。それに細川俊夫氏の作品が3曲、尹伊桑の作品が3曲収められているのだ。
現代曲での共演は、名手ハンスハインツ・シュニーベルガー、オーレル・ニコレ、ハインツ・ホリガー、漆原朝子、トーマス・ラルヒャーという面々。
買ったのはもう一年ほど前だが、折に触れて聞いてきたが、いくつか持っているバッハの無伴奏の中でも最も感動的な録音である。
調律は半音ほど低いが、バロック・チェロというわけではない。歴史的な復古調の演奏というわけではなく、極めて現代的なカザルスに流れをくむものと言えようが、その完成度の高さはまさに偉容と言って良い。
第6は超がつく名演。これを聞いてしまうと他の演奏が聴けなくなってしまう。前奏曲はカザルスも重すぎるし、カサドも歌いすぎてどうも流れがよくない。しかし、デメンガは舞曲のようによく弾み、そして実によく歌う。第5番も素晴らしい出来。スケールがとてつもなく大きい。繊細な表現からうなりをあげる低音の上に朗々とカンタービレを聞かせる場面まで、ひの表現の幅はとてつもなく広い。それに音の美しさ。ピッチがとても良いのだ。だから聞きやすい。(絶対音感がなくて心から良かったと思えるのはこんな時だ・・・。何しろ半音近く低いピッチが、気になるなんてことは私にはないのだから)
細川俊夫の3曲の作品は1998年のヴァイオリンとチェロのためのデュオは、漆原朝子とのアンサンブル。緊張感あふれるその演奏は時空を越える響きを聞くことができる。沈黙が深淵のように聞こえる瞬間は、たった二本の弦楽器によるとは思えないほどの饒舌な響きとの対比の中で描かれる。
1996年の作品である「時の深みへ」はテオドーロ・アンツェロッティのアコーディオンとデメンガの二重奏。いかにも細川俊夫氏の作品らしい長くのばした音に次第に音が加わり色合いが変化していく。チェロのフラジオレットやトレモロ、超高音の音の反復が彩りを添えていく。二十分あまりの大作だが、全く長さを感じないというより、あっという間に時間が過ぎていく。
1978年のウィンターバードは漆原朝子さんのソロによる。作曲者23才の時の意欲作を、このように優れた演奏で聞くと、ヴァイオリンという楽器の可能性の広がりに目眩がしそうだ。これらの細川作品は2000年の11月に録音されているが、さすがにECMである。大変優れた録音で気持ちが良い。

続く韓国の作曲家尹伊桑の3曲の室内楽もまた面白い。彼は細川俊夫氏の先生にあたる。「エスパスI」はチェロとピアノの二重奏。弟子の細川俊夫の寡黙な緊張感と全く違う音楽。間断なく変化していく音楽は強烈な緊張感に溢れている。どこかエスニックというのは韓国出身ということへの先入観かも知れないが、時々、朝鮮半島の伝統的な楽器などとの共通性を指摘する議論を目にしているからかも知れない。
デメンガとラルヒャーの演奏は目も覚めるような演奏。
「ガーサ」はシュニーベルガーとラルヒャーの演奏。この演奏家は本当に知られていない・・・。しかしECMレーベルでアイヴスのヴァイオリン・ソナタの全集があったっけ。あれも良い演奏だった。ハンスハインツというちょっと変わった名前で私は印象に残り、その内その素晴らしい演奏に魅了されてしまった。すでに50年以上のキャリアを誇る大ベテランだが、この尹伊桑の「ガーサ」では全く衰えなんて感じさせない、瑞々しい音色と冴え渡った技術を聞くことができる。ピアノのラルヒャーが硬質の音でやや耳障りだが、これはECMレーベルのピアノの録音の特徴でもある。(まるでキース・ジャレットのケルン・コンサートそのものの音で、マンフレット・アイヒャーの精神はここでも生きている!!)
1968年の作というイマージュはオーレル・ニコレ(fl),ハインツ・ホリガー(ob),ハンスハインツ・シュニーベルガー(vn),トーマス・デメンガ(vc)という面々による四重奏である。当時の現代的な手法が使われていて、今となっては古くさいはずなのだが、音楽を聞いていてつい引き込まれてしまった。古くさいと感じる音楽は、言うべきものがなく手法だけの内容のないものだと知れる瞬間だ。尹伊桑ほどの作品になると、その内容故に手法などから時代を多少感じても、古びた印象は全く受けない。現代のミニマル崩れの無内容な作品こそ古くさい・・・と思うのだが・・・ナイマンさん、どうです?
バッハと現代音楽・・・。面白い組み合わせ。企画自体の斬新さと中身の濃さ、仕上がりの良さに誰もが驚くだろう!!

ECM/1782〜83(461 862-2)
by Schweizer_Musik | 2005-04-17 12:06 | CD試聴記
早起きして散歩
c0042908_8415520.jpg早起きして1時間ほど散歩してきた。大変気持ちよい。ただ花粉は今日も飛んでいるが・・・(泣)
しかたないこととは言え、家の近くの八重桜もやっと咲き始めた。
昨日、ぼんやりしながらNHKが制作した清左衛門残日録の最終回をスカパー!で見る。藤沢周平の原作によるこの連続ドラマは実に良いものであった。海坂藩の要職にあった三屋清左衛門の隠居生活の物語であり、チャンバラや勧善懲悪の物語というものとは全く異なる。藩の二つの勢力争いを大きなストーリーの柱にしながらも、それよりも日々の人々の心の有り様に重点をおいて描いている。
c0042908_8421240.jpg演出も当時の風俗などに極めて忠実で、なるほどと感心する。
私が感心したのは照明だ。明るすぎず当時の明るさを再現していたから、画面は暗く、ちょっと見にくいところもある。しかし、考えてみたらそれが当たり前なのだ。昔、我が家の周りには家もほとんどなく、街灯もないところであった。夜になって帰るのに懐中電灯は必携だった。江戸時代の地方の小藩の城下町なら、夜が明るいはずがない。室内も昼間であっても自然な明るさを基本としているので、ちょっと薄暗い。しかし慣れてくるとそれが普通なのだと思い始める。
c0042908_8423268.jpgこうしたドラマを見ていると風景に対して敏感であるということを私が忘れかけていることを痛感する。スイスに行ってそこかしこの風景に心奪われるのは、私の精神的なリハビリであるのだ。派手な看板が埋め尽くした現代の日本で、風景に対する敏感な感性を磨くのは至難の技だと思う。スイスの風景それこそなにげない丘と林があれば、それだけで十分に美しく、日本だったら観光名所だななどと思ってしまう。これをスイスの人々は何百年、何千年と営々として作り上げてきたのだ。自然に出来たのではない。確かにその意味で人工的な風景である。

ところで、私が散歩していて撮るのは花や空がほとんどであるが、それは人間による制作物、建造物には興味がないというよりも、形が出来上がったものはもう答えが出ていて自分の興味を全くひかないからだ。答えの出ないもの、即ち生命や自然といったものの方がずっと面白い。
それなら人もと言われそうだが、人はちょっと・・・。下手に撮って「盗撮している」と疑われても嫌だし、興味はもともとないのだ(笑)。
晴れやかな朝。ちょっとした散歩は一日の活力の元となりそうだ。
by Schweizer_Musik | 2005-04-17 09:25 | 日々の出来事