2005年 05月 28日 ( 3 )
ドゥ・ラ・ブルショルリのCD化を望む・・・
九州で整理したレコードの中から、持ち帰ったレコードにモニーク・ドゥ・ラ・ブルショルリが弾いたチャイコフスキーのピアノ協奏曲の一枚があった。この前から聞き返してみて久しぶりに感動。アルゲリッチの演奏なんてまだまだと言いたくなるほどの熱い演奏に、心奪われた。これほどの演奏家が交通事故で再起不能となり、その数年後、ひっそりと亡くなっていたとは。共演はルドルフ・モラルト指揮ウィーン・プロムジカ交響楽団。大変なテクニシャンであるが、音楽への集中力がとてつもないのだ。これを聞くとアルゲリッチのキリル・コンドラシンとの共演などがそう大したものでなく聞こえてくるから不思議だ。
ヴォックス原盤のこの演奏がCDになったという話はまだ聞かない。残念なことだ。かつて、モーツァルトの協奏曲も持っていたが、あの一枚は大阪の実家に置いたままになっている。彼女はドイツの評論家として名高いカイザーも絶賛していた名演奏家であるが、残念なことに忘れられるのが早すぎるように思う。
多くの演奏家が復刻されている現在、どこかが彼女の録音を探し出してCDにしてくれないものだろうか?
by Schweizer_Musik | 2005-05-28 22:00 | 音楽時事
ショーソンの詩曲を聞き比べ
この詩曲は、私の好きな曲の一つで、CD初期に、鹿児島の天文館にあった名曲喫茶で何度と無く前橋汀子さんの演奏で聞いた思い出がある。学生時代に大枚はたいてコンダクター・スコアを手にしたことも懐かしい。当時はレコードを持っていなかったのにもかかわらずである。
この幻想的なハーモニーに魅せられ、ピアノに移してボソボソ弾いてはため息をついていたことも懐かしい。
この曲もそう大して色々な演奏を持っているわけではない。実はキョン=ファ・チョンの素晴らしい演奏があれば良いと思って積極的に集めていなかったのだ。他には、オケの独走が目立つとは言え、ダヴィド・オイストラフとシャルル・ミュンシュの演奏や古いユーディ・メニューインとエネスコの共演やジャック・ティボーとアンセルメの録音、更に美しいジノ・フランチェスカッティの録音も・・・。ああバーンスタインがもっとデリカシーに富む指揮者であったなら、せめてこれがジョージ・セルかオーマンディだったらと嘆くことしか今は出来ないが・・・。
で、これらの録音を聞き返してみた結果を報告したい。この一ヶ月、現代音楽ばっかりだった耳にビタミンを与えるつもりで、今日の午後はこの曲を聞き、レッスンをし、またこの曲を聞いていた。

まず最初に取り出したのはダヴィド・オイストラフとミュンシュの1955年12月14日ボストン・シンフォニー・ホールでの録音である。鉄のカーテンの向こうからやってきたこのヴァイオリンの巨人によるフランス物は線の太い楷書のショーソンだ。スケールの大きな表現は見事で、ミュンシュは合わせ物は明らかに上手くない。交響曲のように独走してしまうのだ。しかしオイストラフはその上を行く。暴れ馬を乗りこなしてとてつもないスケールで描いたショーソンだ。しかし、私のこの曲に持っているイメージとは明らかに大きく異なるので、どうしてもファースト・チョイスの演奏にはならない。
エネスコがピアノ伴奏で弾いた1928年頃の録音もあるが、これはBiddulph/LAB 066ではノイズが多すぎて困ったものだが、EMIのヴァイオリンの巨匠達(男声篇)(EMI/CE25-5886〜95)は大変良い復刻で十分に鑑賞できる。戦前の決定盤であったそうだが、確かにこの幽玄な世界は独特である。ピアノに少々不満もあるが、エネスコの変幻自在の表現によくつけていると思う。オーケストラではこうはいかなかったことだろう。音楽がピアノにシフトするとエネスコの幅広い表現を聞いてくると、ちょっと一本調子に聞こえてしまうのは、ピアニストが悪いわけではなく、ヴァイオリニストが良すぎるために起こる現象だ。

この録音のほぼ五年後、パリでエネスコはオーケストラを指揮してこの曲を録音しているが、その時のヴァイオリン独奏は若いユーディ・メニューインである。
サーフェイス・ノイズはあるが、EMI/5 65960 2の復刻は見事だ。とても聞きやすい復刻で、これはモノラルでの決定盤と思えてくる。オーケストラのパリ交響楽団がどういう団体かは知らないが、大変良い演奏で、エネスコの本職でない指揮でここまでついてくるのは大したものだ。ところどころ指揮者のミスによると思われるアンサンブルのほころびはあるし、弦の盛大なポルタメントに時代を感じるものの、そんなことはすぐにどうでも良くなる。どこもかしこも霊感に満ちあふれた演奏だ。これぞ歴史的名盤!!

次ぎに取り上げたのは、トーシャ・ザイデル(vn),レオポルド・ストコフスキー指揮ハリウッド・ボウル交響楽団の1945年7月22日録音である。ザイデルは知る人ぞ知る名手だが、ストーキーはこうした合わせ物が実はとっても上手いのだが、この演奏もうまくつけている。しかし、どうも居心地の悪い演奏だ。ストコフスキーとショーソンの相性はあまりよくないのではないか?ザイデルも演奏もエネスコや若きメニューインの名演を聞いた後で聞くと、どうも今ひとつというところ。ザイデルのピッチもあまり良くない。私は少々気持ちが悪かった。

ジャック・ティボー(vn),エルネスト・アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団の1946年の演奏はこのザイデルの後ではものすごく感動的だった。アンセルメのこうした作品でも冴え渡った指揮は定評のあるところだ。
ヴァイオリンは多少のジャック・ティボーの年齢を感じさせるとは言え、なんて素晴らしいのだろう。音楽に集中しフレーズを歌いきっていく。緊張感は大変なものだが、それを受け止めるアンセルメの指揮の落ち着いたテンポにより、一本調子の高揚した演奏と一線を画すものとしている。
エネスコの指揮でのメニューインの演奏は、感性の瑞々しさにその高い価値があると思うが、総合点では明らかにこのジャック・ティボーによる演奏が全てにおいて勝っている。アンセルメの指揮もエネスコの指揮とは比べ物にならない。

ジノ・フランチェスカッティとバーンスタインの録音は、素晴らしいヴァイオリンに対して、バーンスタインの演奏がチャイコフスキーの「悲愴」になってしまっている点が残念だ。響きに対するデリカシーが無いというべきか。ネチッとしたサウンドに冒頭から最後まで違和感を感じたが、この演奏が評論家は一番にあげていることが多いのは何故だろう。
バーンスタイン流にショーソンを解釈しているわけで、それを非難する気は毛頭無い。これも一つの解釈である。

今のところ、最もよく聞く演奏はキョン=ファ・チョンとデュトワが組んだ1975年の録音である。キョン=ファ・チョンはこの頃が最も勢いがあったし、演奏にひらめきがあった。曲によっては鬼気迫るものもあるが、このショーソンでは実にバランスがよろしい。ちょうどユーディ・メニューインの若いときの演奏のように。しかしそれだけではない。デュトワ指揮のロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団がなかなかに良いのだ。
かつてLPでよく聞いた演奏はアルチュール・グリュミオーであった。マニュエル・ロザンタ−ルが指揮したあの演奏は私のこの曲の原点になっているようだ。あの演奏は今は行方不明で、また聞いてみたいという気がしないでもないのだが、今、キョン=ファ・チョンの演奏があるので、十分に楽しめている。

で、結局のところザイデルとジノ・フランチェスカッティの演奏には多少不満を持ったものの、その他は結構楽しんで聞けたのが実情で、どれもがお薦めというわけのわからない結論としておこう。
by Schweizer_Musik | 2005-05-28 21:35 | CD試聴記
ラヴェルとショーソンのピアノ・トリオ *****(特薦)
1983年の録音。ラヴェルとショーソンの名作を二曲録音したもの。
ラヴェルの作品のなんともロマンチックな演奏。イヴォン・カラシリ(vn),クラウス・ハイツ(vc),アンリ・バルダ(pf)の三名による1972年録音の演奏(ラヴェル室内楽全集の中におさめられている)などに比べるとずっと大人の演奏である。
若き日のナヴァラが参加した1941年のダンテ盤(DANTE/LYS380〜381)は演奏は理想的なのだが音が悪いというか盛大なノイズの彼方の音を聞く趣である。ダヴィド・オイストラフ(vn),スヴャトスラフ・クヌシェヴィツキー(vc),レフ・オボーリン(pf)の3人の録音は目覚ましいものだが、1952年のモスクワ録音でノイズが気になるが、ナヴァラの盤ほどではなく、とりあえずこの演奏で我慢をしておこうかというところだった。(演奏そのものは最高級のものであるが、録音が・・・)
CDが売り出されて最初期に出たボザール・トリオ(メナヘム・プレスラー(pf),イシドーア・コーエン(vn),バーナード・グリーンハウス(vc))の演奏はそれこそ素晴らしいもので、決定盤とおもわれたものだ。しかし、意外にも彼らの評価はこの頃低く、あまり話題にならなかったのは不思議だった。常設のトリオとして目覚ましい活躍をしていた彼らが認められるようになるのは二十一世紀の声を聞くようになった九十年代後半になってからだった。
その彼らのラヴェルは決定盤と言ってよいだろう。ロマンチックに過ぎるかもしれない。歌い回しだけでなくテンポの動きもロマン派的であり、ラヴェルの演奏にしては少し感情移入が大きすぎるところもある。ヴァイオリンのコーエンはがんばっているものの、ダヴィド・オイストラフとでは勝負にならない。線が細いのだ。しかし、アンサンブルのヴァイオリンとしてはなかなか美しい。逆に3人のバランスということでいけばボザール・トリオの演奏は大変よくまとまったもので、満足のいくものである。チェロの名手グリーンハウス(確か彼だけが創設以来のメンバーではなかったか?)のアンサンブルを知り尽くしたベースの支えで、大変見事なまとまりで、これは推薦できる。
第1楽章のModereはいかにもラヴェルの作品らしい旋法をうまく使い、柔らかな抒情を湛えた音楽。第2楽章はパントマイム。実に技巧的な作品で、ラヴェル以外に絶対に書けそうもない音楽。これでパントマイムをやっているのを見たことはないが、忙しない劇となろう。音楽は明らかにスケルツォである。ボザールの緊密なアンサンブルはこうした楽章で威力を発揮する。オイストラフ・トリオの演奏は少しゆったりとしたテンポを選んでいて、それによって音楽の構造がよく聞き取れるのだが、スケルツァンドな性格は少し薄められてしまう。
第3楽章のパッサカリアは緩徐楽章の役割を担っているが、クープランの墓のなかのフーガのように対位法の時代の古い楽式によるものであるが、彼の作品中最も重く深刻な音楽ではないだろうか。第一次世界大戦中に書かれたということも影響しているのかも知れない。深く心に傷を負った者だけが書ける音楽だ。コーダ近くで弱音器をつけたチェロのメロディーの寂しげなこと!サラリと歌い上げて深い情感を聞く者に残すグリーンハウスのチェロは見事。プレスナーのピアノは名演だ。
終楽章は一転していつものラヴェル節が炸裂するのだが、ピアノ・トリオなのに協奏曲か管弦楽の作品を聞いているかのような充実したサウンドは、もう脱帽だ。ボザール・トリオの演奏は全く不足はない。
この演奏はユニバーサルから2000年にパノラマ・シリーズのラヴェル作品集としてこれだけが再発された。

引き続いてショーソンのトリオを聞く。
第1楽章の序奏でチェロのソロが出てくるところでのテンポとリズムの取り方がかなり古風で驚かされた。一拍目を重くとって拍子感を際だたせるもので、ケンプなどの演奏に聞くことができる。したがって今日の感覚からすると少しルバート気味に聞こえる。和声的にはショーソンがこの時代の音楽家としては当然なのかも知れないが、ワーグナーの強い影響下にいたことを感じさせるものだ。
主部に入ってテンポが速くなってからもそうした近代的な響きは随所で聞かれるが、基本的にはロマン派の音楽からそう踏み出したものではない。堅牢なソナタ形式で書かれ、テーマのちょっとしたハーモニーに時代を感じさせるとは言え、なかなかに魅力的である。ボザールの演奏はショーソンのいささか屈折したロマンチックな音楽を見事に表現したもので、素晴らしい。この曲があまり演奏されないのは一体どうしてだろう?
第2楽章はスケルツォだ。リズム的にとても面白い工夫があり、転調もなかなかに発明があり、これまたうまく出来た音楽だ。トリオで伸びやかなメロディーが出現するが、ボザールの演奏は全く素晴らしく、私は至極満足させられた。
しかし、全曲の中ではこの楽章の印象が少し地味な感じが否めないのは事実だ。それは発想とショーソン自身のもっているものとの開離にあるように思われる。彼はスケルツァンドな音楽よりも歌い上げるタイプの音楽により合っていたのではないか。どうもそんな印象が強く残る。だから続く第3楽章のずっしり来る音楽にこそ、ショーソンの最良の音楽を聞くことができるのだ。
第3楽章は若いショーソンが思いの丈を存分に歌い上げた音楽。「詩曲」はこうした音楽が発展して行く中が生まれた奇蹟のような音楽なのだ。その原点に触れるような貴重な瞬間がそこかしこに聞かれる。ボザールの美しい演奏には全く不満を言う気持ちにならない。ラヴェル以上に彼らの性格に合っているように思われる。
終楽章はもう少し軽やかでもいいのではないだろうか?軽やかな楽想にアルペジオのピアノを配するあたりショーソンだ。ノーテンキに弾んでいられないのがショーソンであるとすれば、この演奏は全くショーソンの意図をよく汲んだものと言えよう。アーティキュレーションにプレスラーのセンスの良さを感じさせる。彼はなかなかにテクニシャンである。この楽章のピアノ・パートは弾くのは相当の技量を要求されたはずだが、サラリとこなすのはさすがだ。しかしピアノが要とは言え、三者が一体となっての盛り上がりは凄まじく、ボザール・トリオがこうしたロマンチックな音楽に対して、素晴らしい適合性を聞かせることの好例としてアレンスキーなどの名演とともにこの曲の演奏もあげることができよう。名演である。
このCDは1994年頃、PHCP-3841として再発されているが、今も手に入るのかどうかは私はしらない。再発されていないとすれば、実に残念なことだ。見つけられたらぜひ手にとって聞いてみられることをお薦めしたい。

PHILIPS/35CD-136
by Schweizer_Musik | 2005-05-28 08:05 | CD試聴記