2006年 08月 21日 ( 1 )
今日の一曲 (6)
大好きな曲が有名曲でなくても良いじゃないかとぶつぶつ言いながら、書いている。今日は「ヴァーレンシュタットの湖にて」である。
この人里離れた湖畔に立った時の感慨は特別のものだった。チューリッヒから列車でいくのだが、かなり山深いところになる。
ここにリストとダグー夫人が訪れたのは、リストはダグー夫人との不倫の末、ダグー夫人が妊娠してしまうという事態に至ったことによる。
パリを逃れてバーゼルで二人落ち合って、スイス各地を逃避行の旅をして、やがてジュネーヴに落ち着き、そこでリストとの間に出来たブランディーヌをダグーは産むのだが、この時の逃避行の印象を音楽にしたのが「旅のアルバム」という曲で、そこから選んで作られた曲集が巡礼の年第1年「スイス」であった。
そして、その第2曲がこの「ヴァーレンシュタットの湖にて」という作品なのだ。
メロディーはスイスのヨーデルを表し、左手は湖面をゆく小舟の櫓とさざ波を表していると言われているが、いかにもしみじみとした美しい作品である。
ダグー夫人はこの曲を「涙なしには聞くことができなかった」と書いている。身重の体でスイスを旅するという厳しい環境と、自身の将来に対する不安とが交錯した中で、この悲しい湖畔の牧歌は、深い感慨とともに聞こえていたに違いない。
何年前だったか、グリュイエールというレマン湖から少し山に入ったところのチーズで有名な村にある古風な城にあるピアノが、リストがかつてジュネーヴに暮らしていた頃に使っていたピアノだとしてこの巡礼の年第1年「スイス」をそのピアノを使って録音されたことがあった。
確かにリストがジュネーヴに暮らしていた時代にそこにあったメーカーのピアノであることは事実であるが、全く確証らしいものがなく、ただ「これがリストのピアノです」と言われてもどうもピンと来ない。
しかし、こんなスイス・フリークであるからそのCDもしっかり持っている。ただ、あまり良いとも思わないので、私の参考資料としておいてあるだけである。
この曲を聞くなら、私の知り合いで恐縮ではあるが、津田理子さんが1993年に録音したもの(Cypres/CYP 5616)…手に入りにくいかも知れないけれど。あるいは今は亡きホルヘ・ボレの1983年の名演(LONDON/F35L-50488)が良い。両方とも手に入らなければ、ラザール・ベルマン、アルド・チッコリーニなどでもいいだろう。
私にとっても、あのヴァーレンシュタットの湖での一時は、忘れ得ぬ時間である。
by Schweizer_Musik | 2006-08-21 07:04 | 今日の一曲